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四人で自宅へ向かう。
途中で別れるはずなのだけど、ゆかりと一馬はうちに来る約束をしていたから、一緒だった。
けど、なぜか春もついてくる。
「ねぇ、春」
「んー?」
「あんたんちは向こうだから、遠回りになるんじゃない?」
腕を伸ばし、東を指差す。
「いや、俺もあずんちに行こうかと」
「は?」
どんだけ厚かましいの!こいつ。
冗談じゃない。
春が近くにいるだけで苛々は増すし、落ち着かない。
こんな、いるだけで不機嫌にできる人間他にいない。
「嫌だよ。帰んな」
「えー、俺だけのけもん?」
淋しいじゃん、と続けた春に、ゆかりと一馬は同調した。
「いーじゃん。春海も一緒でさ。空澄、料理うまくなったんだぜ?春も久々に食いてーよなぁ」
「そっか。あずが料理するようになったの、十和田君がいなくなった後からだもんね。あずのご飯美味しいんだよー。調理実習の悪夢からすると、別人なの」
誉めてる?貶してる?
はは、と乾いた笑いを漏らす私を見やり、春はにやり、と笑う。
一日でこの笑い方、何回見ただろう。
「あずのメシ、食いたい」
三対一で、私の負け。
こうして四人でうちに帰ることになった。
うちは、一階がお店になっていて、二階と三階が自宅になっている。
玄関はお店の横にあって、階段を登ってリビングへ入る。
そうして上がると、ゆかりと一馬は自宅のようにソファーに腰掛けた。
春は物珍しげにキョロキョロとしている。
「ちょっと下に行ってくるよ」
私はそう言って、奥の階段を降りていく。
この階段は厨房側に繋がっている。
「ただいま」
顔を覗かせると、フライパンを振りながら、お父さんがこっちを見た。
「お帰り」
「忙しそうだね」
「バイトが一人休んだからな。ホールに一人取られた」
「大丈夫?」
「空澄、出れないか?」
「一馬とゆかりもいるよ?あと、春。憶えてる?」
「……ああ」
「ご飯食べたら、降りるよ」
「待ってるぞ」
今日は本当に忙しそうだ。
外まで並んでたもんなぁ。
私は二階に戻ると、三人を見渡した。
「今日、暇なひとー」
「またか」
「外までだったもんね。了解」
春だけ頭にハテナマーク。
「ご飯作るから説明しといて」
私は、そう言ってエプロンを身に付けた。
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