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私がご飯を作っている間、春はゆかりたちから説明を受けて、キッチンテーブルに出来上がったものを並べていると、春が近寄ってきた。
何、その顔。
「俺もやる」
「言っとくけど、バイト代出ないよ?」
「それは聞いた。バイト代はないけど、あずんちのメシ、食い放題なんだろ?」
「…………」
何だ?その過大な解釈は。
「……一馬?」
「えー、俺ちゃんと説明したぜ?春海、しばらく会わないうちに頭悪くなったんじゃね?」
それは間違いない。
うんうんと頷けば、春に背中をどつかれた。
「何よっ」
「おれ、首席。頭悪くない」
「あはは。インディアンになってる。十和田君面白ーい」
「店の手伝いした奴は、メシを食わせてくれる、て事だろ?」
「まあ」
「これは前払い、て事?」
「違うよ、十和田君。手伝いも、ご飯も頻度が半端ないから、普通になっちゃってるの」
「俺なんて、親が旅行でいなくて飯食えなかった時、三食お世話になったもんなー」
「あー、あったね。一馬置いてきぼり事件」
話ながら、テーブルに並べ終わると、ゆかりたちは自然と席に着く。
「春も座って。二十分で食べてね」
みんなで手を合わせる。
『いただきまーす』
作ったのは、肉団子の甘酢かけと、卵スープ、春雨サラダ。
「あ、うまい」
そんな春の感想に、ちょっとくすぐったさを感じながら、みんなでご飯を食べた。
自分の作ったものを美味しそうに食べてくれる顔が好き。
だから、料理が好き。
こんなことを思うのは両親の血のせいかな。
きっかけはさっきゆかりの言ってた悪夢の調理実習なんだけどね。
あれは、小学六年生。
春が転向してしまう少し前だった。
まだ、作るという事に全く興味のなかった私は包丁すらほとんど扱った事がなかった。
「調理実習、さばの味噌煮だって」
家庭科の授業の前の休み時間、ゆかりはどこからか仕入れてきた情報を私に話す。
「げー。俺、魚好きじゃない」
一馬はげんなり顔。
「僕は好きだよ。さばも、味噌煮も。あず、同じ班だから頑張ろうね」
そう言って笑む春に、私は自信なげに頷いた。
「大丈夫だよ。さばなら頭ついてないから」
私は魚の顔が苦手だった。
目がね、白いじゃない?でもって、口が半開きでがたがたの歯が見えていて、とにかく怖い。
「大丈夫」
そう言って、春は私の背中を撫でて安心させようとしてくれた。
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