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班のみんなにブーイングを受けながら、みんなが代わる代わる包丁を魚に突き刺す中、春は私の分も魚をさばいてくれた。
「木下ー、お前こっからはちゃんとやれよな」
「うん、やるよ」
切り身になり、きれいになった状態のさばを前に、私はやっとやる気を出す。
魚が大きかったので、二つの鍋を使う事になった。
班は五人。
私と春で一つ。もう一つを残りの三人で。
春の事が好きな女子がごねたけど、女子は別れたほうがいい、と春が言ったからその子は言うことを聞いた。
「ここからはあずに任せるよ。僕は包丁とか洗うから」
「うん、わかった」
そうして私は調理に取り掛かる。
でもね、それが間違いだったんだよね。
だって、私、用意してあった調味料、全部目分量で投入しちゃったんだもん。
両親が厨房に立ってるのを見て育った私。
目分量は当たり前だと思っていて、なおかつ親がプロなんだから、娘の私はできて当然、ていうわけのわからない自信を持っていたのですよ。
出来上がった代物は、見た目からしてよろしくなかった。
使い終えた物を順に洗っていった春は、皿に盛られたそれを見て、固まっている。
できばえを見に来た一馬は爆笑してたし、ゆかりも目が点になってた。
「どうやったらこれになるの?」
「さあ?」
ゆかりの問いに私も引きつりながら首を捻る。
「見た目はあれだけど、きっと味はいけると思うよ?」
そう言ってみたけど、一番食べたくないと思っているのは私だった。
そして試食タイムがやってきた。
目の前の元は魚だった、今はわからないそれに箸を伸ばす。
隣でも春が箸を伸ばしていた。
一口食べてみた。
………なんじゃこりゃ。
まずい!
おそるおそる春を見る。
箸が口の中に入っていた。
そして、何度か租借したあと嚥下して、呟いた。
「……カオスだ」
途端、傍で聞き耳を立てていた一馬が大爆笑した。
「カオスーっ、ははっ、すげー空澄!」
先生に叱られながら、なお笑う一馬を無視して、春はきれいに魚を食べていく。
「……ごめん、春。無理しないで」
「無理してないよ。せっかく作ったんだから食べよう」
春はそう言って全部食べた。
でも、私は食べる事ができなくて、うちにもって帰った。
そして、帰ってそれを食べた両親から、分量と手順を守る事を説かれたのだった。
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