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懐かしい思い出。
「私、カオスの意味知らなかったんだよね」
肉団子を口に放り込みながら、そう呟いた。
刹那、一馬は吹き出すし、ゆかりも笑いを堪える。
「おまっ、食ってる最中にそれはなし…っ」
一馬はあれ以来、さばの味噌煮を見ると笑えて仕方ないらしい。
いつか作ってやろうと思ってる。
笑い死ね、一馬。
「あれからしばらくして十和田君は転校しちゃったから知らないだろうけど、あず、リベンジするために頑張ったんだよ」
そう、未来(さき)をあんじた両親に仕込まれ、店の手伝いやまかない、夕食を作るようになった。
で、やってくうちに、目分量でも大体味の予測がつくようになり、自分なりに美味しいものが作れるようになっていった。
食べた人がね、笑顔になるのはたまらなく嬉しい。
そうして二年くらい修行?して、仕上げとばかりにさばの味噌煮を両親に振る舞った。
頭のない切り身を買ってきたんだけどね。
今では魚の頭に昔ほど怯えなくはなってる。
でもね、ゆかりの言い方はまるでもう一度春に食べてもらうために頑張ったみたいで……。
違うんだから否定しなきゃ、と頭では思うのだけど、うまく口が廻らなくて、私は魚のように口をぱくぱくとさせた。
「へぇ、じゃあ今度さばの味噌煮作ってよ」
うるさい、春。
案の定、意味を取り違えた春に、私は睨みを効かす。
「早く食べて下に行くよ」
それだけ言って、私は黙々と目の前の自作の料理を平らげた。
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