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昼のラッシュが終わり、お父さん達が昼食を済ませて少し経った頃、私たちは二階にあがった。
「今日は半端なかったな」
ソファーに腰掛けて、一馬がぼやく。
「ねー、忙しかった。まさか入学式の日までお手伝いするとは思わなかったけど」
「みんな、ありがとうね」
私がお礼を言うと、一馬はニヤリ、とこちらを見た。
なんだ?その笑いは。
ちょっと嫌な予感。
「ミートパイ」
「………マジっすか」
「マジっす」
私は唇を尖らせて上目遣いで一馬を見た。
「あれ、超めんどくさいからぁ、あず、やだなー」
「キモい、却下」
すかさず突っ込む一馬に、ボケたのは私とはいえ、軽い殺意を抱く。
子供の頃から一緒だと男女としての気持ち、生まれないのかもしれない。
それとも私と一馬だけなのかな。
だって、ゆかりに対して一馬はとても優しい。
一馬にそういうの求めてないし、一馬とならお風呂も一緒に入れるんじゃないか、ていうくらいお互いに性別を意識していない。
一緒にいてすごく楽な存在である事は間違いないんだよね。
……けど、春は違う。しばらく会っていなかったせいか、昔と違って変な意識をしてしまう。
それが、とても腹立たしい。
居心地が悪い。
それもこれも、馬鹿春がキスなんてしたからだと思う。
死ね、クソ春。
心の中で毒づけば、春はそ知らぬ顔をして、ソファーに座っていた。
…でも、…まあ、お店手伝ってくれたし、助かったのは確かだし。
あんまり邪険にするのも可哀想だし。
だから、嫌い、は取り下げてもいいかな。
だって、今日から高校生。
昨日までのお子さまな私とは違うんだから。
「一馬も、ゆかりもありがとう。…春もありがとう」
少しの間と小さくなった声は、別にお礼を言いたくないからじゃない。
でも、私はすぐに後悔する事になる。
「俺へのお礼はこれでいーよ」
立ち上がり、私の腕を掴んだのはあっという間。
気が付いたら、目の前には春の顔。
そして、本日二度目のキスをされていた。
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