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そんな彼の名前を久々に聞いたのは、中学三年の秋だった。
『………マジばな?』
『本当らしいよ?』
『頭の良かったあいつだろ?』
『病気だってさ。難しい名前で忘れたけど』
そんな彼の噂話を小耳に挟んだ時、小学生の頃から仲良しの友達、平野ゆかりが全く違う話をしてきた。
「ねぇ、あず、志望校提出した?」
「……うん、したよ?前に言ったのと一緒。変えてない」
「本当?良かった、私もあずのとこと同じ高校、志望にしたから」
そんなガールズトークをしていると、同じように仲のいい松本一馬が近づいてきた。
「空澄(あずみ)、春海の事憶えてるか?」
さっきの噂話の事だと思った。
一馬が口を開かなくてもわかる。
顔が全てを物語っている。
けれど、聞いた。
「春がどうしたの?」
三年前に嫌いな人リストにアップした、友達だと思っていた人。
そんなやつの話、どうでもいい。
もう、この場にいないのだから。
けれど、一馬の面持ちと噂の真相が気になるから、訊いてみた。
「春海、死んだって」
「嘘っ」
驚きの声をあげたのは、ゆかり。
私はと言えば、ただ一馬の言葉を自分でも驚く程冷静に消化していた。
言うなれば、テレビで芸能人の訃報を目にしたのと同じ感覚。
「そうなんだ」
「それだけ?理由、訊かねーの?」
信じられないような眼差しに、私も同じ眼差しを返す。
どうしてそんな眼で私を見るの?
ただの同級生だった。
黙って転校した、当時私だけが友達だと思っていただけの男の子。
「なんで?どうして十和田君が死んじゃったの?」
私より春と接点の少なかったゆかりの方がよっぽど友達らしい。
「悪性リンパ腫だって。ガンみたいなもんだってよ」
ガン?
そんなの、大人のなるものじゃないの?
良くわからない病名は、現実味が湧かなくて、じっと私を見ている一馬に何て言っていいのかわからなかった。
「……転校も治療の為だったんだ」
―――……え?
初めて聞いた転校の理由。
あの時、もう病気だった、て事?
それを聞いて、私は余計に春が嫌いになった。
春は肝心な事を私に話さなかった。
それだけ春にとって自分はどうでもいい存在だったのだと。
傷ついたのを認めたくなくて、私は怒りにすげ替えた。
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