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憶えている、春との最古の思い出は保育園の頃。
遠足に行った公園でお弁当を広げていた時の事。
蓋を開けてお弁当箱を持ち上げた瞬間、つるりと滑ったそれは芝生の上に逆さまになって、着地した。
一瞬、ううん、数秒呆けていたと思う。
呆然としていたのは私だけじゃなく、同じグループだった子、皆もで。
はっ、としてお弁当箱を持ち上げてみれば、当然中身は全て芝生に残っていた。
それはもう見事にお弁当箱の形にひっくり返った状態。
『ふぇ…』
ショックで、軽くパニくって泣きかけた時だった。
『あずみちゃん、僕のお弁当半分こしよ?』
今思い返しても、春はできた子供だったと思う。
慌てて駆け付けた先生が落ちたお弁当を片付けてくれ、菓子パンを一つくれたけど、その間私はずっと泣いていた。
そんな私の隣にいてくれた春は、言葉通りお弁当を半分くれて、私はべそをかきながらそれを食べて、貰ったパンも半分こして二人で食べた。
だけど、それも春を、と言うよりお弁当をひっくり返した、という強烈な記憶に春が付随していたというだけ。
正直な話、他の保育園時代の記憶の中に、春が関係しているものはない。
次に憶えているのは、小学二年生の頃。
真冬の寒い日、この日は雪が沢山降って大興奮したのを憶えている。
休憩時間の全てを雪遊びに注ぎ込んだ私は、帰りに手袋がなくなっている事に気が付いた。
つい最近買ってもらった手袋は、自分で選んだお気に入りの物で、私は、それはもう必死になって探した。
でも、どこを探してもなかった。
ランドセルも中身を全部出したし、机の中も、ロッカーも、何度も何度も探した。
『ない…よぉ』
決して泣き虫な方ではない。
けれど、お気に入りがなくなった悲しみと、母に知られたら叱られるかもしれないという勝手な恐怖とで泣きそうになっていた。
『あずみちゃん?』
机の上に広げられた物を、半泣きでランドセルに詰めている時だった。
『どうしたの?』
ふんわりとした穏やかな笑みを浮かべた春がそこにいた。
『手袋がないの』
『よく探した?』
探してもないから、半泣きなのにその言葉は私をひどく苛立たせた。
春は関係ないのに、焦ってるのは自分だけな事に笑ってる春に腹が立つ。
『うるさい!どっか行って!』
言うつもりのない言葉が気が付くと出ていた。
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