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『あずみちゃん、花を見に行かない?』
あー、春が呼んでる。
あずみちゃん、だなんて呼ばれたのすごく昔のような気がする。
気が付けば、春は私の目の前にいた。
そっか、これは夢なんだ。
だって、春が小さい。
夢って言うより過去だ。
『またお花?好きだねー、春も』
そう言いながら私は立ち上がって、付いているかわからない砂を払うように、お尻を叩いた。
『いいよ。いこ』
『ありがとう、あずみちゃん』
他の遊びなら春も男友達とするんだけど、植物の観賞になんて付き合ってはくれない。
ちらっと見やれば、フリスビーに夢中になってる春の仲間が目に入った。
『さっき、ニリンソウの群生を見つけたんだ』
『それって珍しいの?』
『全然』
『それをわざわざ見に行くの?』
『僕、ニリンソウ好きなんだ』
とても嬉しそうに笑んで、私を見る。
そんな風に春が笑うと私も嬉しくなる。
他の誰でもなく私を誘ってくれた事が、特別な存在なのだと言っているようで、私も笑みを返した。
白い小さな花がたくさん咲いている。
あたり一面咲いてるのかと思った私は、あちこちに別れて幾つもの塊を作るそれを見て、思っていたのと違う事にほんの少しがっかりしていた。
『小さい花だね』
私がそう言うと、春は笑って一つの塊の前でしゃがみこんだ。
『あずみちゃん、ほら、見てみて』
春を真似て隣にしゃがみこむ。
『一つの茎から二つの花が咲いてるでしょ。だから、ニリンソウ』
あー、そういえば、花は一本じゃなくて一輪て数えるんだったなぁ。
そんな事を思い出して、白い花を見れば、全ての花が一本の茎から二つずつ花を咲かせていた。
『本当だ』
『面白いでしょ』
『んー?面白くは、ないかな。でも、なんか可愛い。仲良しみたいで』
『うん。僕もそう思う』
汗ばむ程の陽気だけれど、山だけあって心地いい。きれいな空気にきれいな景色。
その雰囲気に溶け込んでる春が、なんだか羨ましくて。
私も春を真似て、穏やかに笑んでいた。
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