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「………ねぇ、笑ってるよ?この人」
「ほんとだ。夢みてるのかな。……にしても、何この笑い方」
「仏みたいだよね。気持ち悪っ、あずっぽくない」
「仏ってー。意味違ってきちゃうよ」
なんか、頭の上が騒がしい。
あぁー、寝ちゃってたんだな。懐かしい夢見たよ。
そっと瞼を開ける。
目に飛び込んできたのは、私に向かって手を合わせている、二人の友人だった。
「……何してるの?」
「うわぁっ、生き返った」
「美穂、復活だよ!キリストだよ」
「え?仏じゃなかったっけ?」
変なコントを繰り広げる二人の傍で、春が背中を向けて身体を震わせていた。
……絶対、笑いを堪えてる。
「で?何で拝まれてたの?私」
「へ?あー、あずが面白い顔で寝てたからさ」
ますます意味がわからない。
首を捻る私を見た春が、笑いながら疑問に答えてくれた。
「あず、笑ってたんだよ。穏やか~な微笑、て感じで。そしたらそいつら、仏様~て言いだして手を合わせたところで、あずが目を覚ました、てわけ」
成る程。
なんて、納得するわけない。
「何やってんの、二人とも!」
「あはは。ごめん、ごめん」
「許して?あずみちゃん」
葉月が口にしたその呼び方に、ドキッとした。
さっきまで夢でそう呼ばれてたから。
その夢の登場人物を見やれば、面白そうな顔をして、こっちを見ていた。
「私、たくさん寝てた?」
「十五分くらいかな。そんなに寝てないよ?」
「そっか。春、散歩行こうか」
急に私が言いだしたから、三人とも驚いた顔してる。
「昔、こういうとこに来ると散策をしてたんだよ。ね?春」
「ん、行こうか」
美穂たちも誘ったけど、断られ、立ち上がり、春と茂みに向かって歩く。
「初めてだ」
クスリと笑んで、私がそう呟くと、春は不思議な顔をして「何が?」と問う。
「私から誘ったの。いつも春からだったでしょ」
「そうだったかな」
「そうだよ。さっき四年生の遠足の夢見たの。それで、懐かしくて散歩に誘っちゃった。
久々に、春の講義受けようと思って」
「そうか。あんまり覚えてないかもしれないけどな」
そんな事を言って、春は細い遊歩道に、足を踏み入れた。
私も春についていく。
時々振り返りながら、私の存在を確認し、散策する。
問えば答えてくれる春が懐かしく思えたけれど、あの頃のように風景に溶け込んでいないのは、大きくなってしまったからかもしれない。
それが少し残念だった。
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