25/29
1179人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
「………ねぇ、笑ってるよ?この人」 「ほんとだ。夢みてるのかな。……にしても、何この笑い方」 「仏みたいだよね。気持ち悪っ、あずっぽくない」 「仏ってー。意味違ってきちゃうよ」 なんか、頭の上が騒がしい。 あぁー、寝ちゃってたんだな。懐かしい夢見たよ。 そっと瞼を開ける。 目に飛び込んできたのは、私に向かって手を合わせている、二人の友人だった。 「……何してるの?」 「うわぁっ、生き返った」 「美穂、復活だよ!キリストだよ」 「え?仏じゃなかったっけ?」 変なコントを繰り広げる二人の傍で、春が背中を向けて身体を震わせていた。 ……絶対、笑いを堪えてる。 「で?何で拝まれてたの?私」 「へ?あー、あずが面白い顔で寝てたからさ」 ますます意味がわからない。 首を捻る私を見た春が、笑いながら疑問に答えてくれた。 「あず、笑ってたんだよ。穏やか~な微笑、て感じで。そしたらそいつら、仏様~て言いだして手を合わせたところで、あずが目を覚ました、てわけ」 成る程。 なんて、納得するわけない。 「何やってんの、二人とも!」 「あはは。ごめん、ごめん」 「許して?あずみちゃん」 葉月が口にしたその呼び方に、ドキッとした。 さっきまで夢でそう呼ばれてたから。 その夢の登場人物を見やれば、面白そうな顔をして、こっちを見ていた。 「私、たくさん寝てた?」 「十五分くらいかな。そんなに寝てないよ?」 「そっか。春、散歩行こうか」 急に私が言いだしたから、三人とも驚いた顔してる。 「昔、こういうとこに来ると散策をしてたんだよ。ね?春」 「ん、行こうか」 美穂たちも誘ったけど、断られ、立ち上がり、春と茂みに向かって歩く。 「初めてだ」 クスリと笑んで、私がそう呟くと、春は不思議な顔をして「何が?」と問う。 「私から誘ったの。いつも春からだったでしょ」 「そうだったかな」 「そうだよ。さっき四年生の遠足の夢見たの。それで、懐かしくて散歩に誘っちゃった。 久々に、春の講義受けようと思って」 「そうか。あんまり覚えてないかもしれないけどな」 そんな事を言って、春は細い遊歩道に、足を踏み入れた。 私も春についていく。 時々振り返りながら、私の存在を確認し、散策する。 問えば答えてくれる春が懐かしく思えたけれど、あの頃のように風景に溶け込んでいないのは、大きくなってしまったからかもしれない。 それが少し残念だった。 .
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!