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遠足というイベントも終わり、次に待っていたのは私にとって最大の天敵、『期末テスト』だ。 中間テストはギリギリ平均点で難を逃れた。 これ以上下がったらバイトをさせてもらえなくなる。 そうなってしまえば、お小遣いは少なくなるし、相原さんの技術を盗めなくなる。 悪い事づくめだから、なんとか頑張りたい。 けれど、 「つくづく平凡なんだなぁ」 「何が?」 ため息まじりに愚痴れば、吊り革に掴まる春が問うてきた。 「春はいいね」 「だから、何が?」 羨まし気に見やれば、同じ言葉を返してくる。 「才能ある人が羨ましいって事」 「才能?ないよ、そんなの」 ……厭味ですか。 それは全てにおいて平均な私への挑戦ですか。 「首席で入学して、中間もトップな人がそれ言う?」 じっとりと睨み付ければ、ははっと乾いた笑いをして、春は私を見た。 「それは才能とは言わないな。記憶力が多少いいのは認めるけど。後は要領の良さと努力だよ。あずの方が才能あると思うけど?」 「…………」 はい? 平凡な私のどこに才能があるというのさ。 「料理うまいじゃん?そっちのが、センスとか必要で才能がものを言うと思うよ?」 そんな事を言われて悪い気はしない。 でも、残念ながら素直に喜んでしまえる程、純真ではない。 だから、気恥ずかしくなって目を逸らせた。 「あずはそれを誇っていいと思うよ」 「……かなぁ」 そんな才能が本当にあるのなら、いつか相原さんみたくなれるのかな。 「出し惜しみするなよ?あず。いくら才能があっても努力しなくちゃ、ないのと変わらない。いつか努力しなかった事を後悔する前に、やれるだけの事、やっとけよ?」 「………春?」 いつになく真剣な春を不思議に思い、問うように仰ぎ見た。 朝から、いつになく真剣な表情の春を訝しむ。 「何でもないよ。熱く語り過ぎたか?」 「んー、正論だと思う。努力は惜しまず、だね」 「だな」 にかっと笑う春に、私も笑みを返した。 .
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