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夏休みに入った。 それに伴って、私のバイト時間には、ランチタイムの忙しい時間が増えた。 昼の忙しさは、夜とは違って半端ない。 私は支度をして、まず、まかないを作る。 すぐに食べられて、手のこんでいないもの。 予算は一食あたり三百円程度で、使用した食材はメモに残しておく。 当然、味にはうるさくて、特に相原さんのチェックは厳しい。 高校生にそこまで求める? とは思うけど、厳しくされるのはきらいじゃない。 相原さんの厳しさは、意地悪じゃなくて愛の鞭なのだとわかるから。 「空澄、ぼさっとしてないで、さっさと皿出せ」 ………そうだと信じたい。 私は慌てて、オーダー表を確認して見合った皿を並べた。 まかないも作った。 もうすぐ昼のピークも終わる。 そうなれば、私は夕方までお休みになる。 けどね、最近そのお休みが騒がしくなっていた。 「こんにちはー」 「あら、春くんいらっしゃい」 春が来るからだ。 夏休みになってほぼ毎日、部活が終わるとやってくる。 もう慣れたもので、店から入って、なぜか洗い物を片付けて二階へ上がる。 必然的に私の仕事も終わってしまうわけで。 二階へ行って、遅めの昼食を一緒に食べるのが常になっていた。 「つくづく暇人だよね、春も」 「だって、あずんちの飯うまいんだもん」 だもん、とか言われても可愛くない。 「今日も私が作ったよ。今日は八宝菜とワカメスープ」 ご飯にかけて中華丼にして、ぱぱっと食べられるようにした。 「丼物最高」 私が中華丼にしたから、訊かずにかけちゃった。 「やっぱうまいな。あず、天才」 「もっと言って」 最近、ダメ出しが多いから、春の誉め言葉が癒しになりつつある。 きっと今日も言われるんだろうなぁ。 それはアドバイスだから、当然きちんと聞くけれど、自信はなくすし、へこむ。 だから、春の誉め言葉で始めにテンションあげておくんだ。 「あず、最高!一流シェフ!」 うんうん、心地いい。 私はそれをにまにましながら受けとめて、スプーンを口に運ぶ。 我ながら中々の出来ばえだと思う。 インスタントの鶏ガラスープは使ったけれど、いい感じに仕上がっている。 「宿題と勉強もするんでしょ?」 「もちろん」 にんまりと笑みながら空になった器を私に差し出す。 私はそれを受け取っておかわりをよそった。 ・
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