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しばらくの静寂。 私は居たたまれない気持ちになりながらも、黙って荷物を詰め続けた。 離れていく足音。 それが春の物だとわかっていたけれど、理不尽な言葉を投げつけたとわかっていたけれど、私は素直になれなかった。 たった一人の教室で、もう一度教室の中をぐるぐると捜し回り、もう諦めて帰ろうとした時だった。 『あずみちゃん、あったよ』 春の声。 振り向けば、散々捜し回ったそれを手にした春が笑って立っていた。 手袋が見つかった安堵。 酷い言葉を投げ付けたのに笑ってくれた事への安堵。 一気に気が抜けて、泣けてきた。 『職員室にある落とし物入れのとこにあったんだよ』 泣いている私に、春はそれを差し出す。 『あ、ありがとぉ……ごめんねぇ』 ようやく出せた言葉は、心を軽くさせる。 『あずみちゃん、泣かないで』 そう言った春は、私が泣き止むまで、傍にいてくれた。 それがきっかけだったと思う。 私は春と話すことが多くなった。 元々、仲良しグループが違ったのでしょっちゅう、というわけではないが、それでも男子の中では一番よく話したと思う。 次の学年も、その次の学年も同じ。 五年生になり、周りが恋の話をするようになって、私と春をからかう男子もいたが、お構い無しだった。 その五年生の時にゆかりと一馬とも同じクラスになったんだっけ。 六年生も四人とも同じクラスで、よく遊んだ。 一馬はサッカーのクラブに入っていたし、春は塾があったから校外で会うことはなかったけれど。 春が転校するまで、私はいつまでも仲良しでいられると信じて疑わなかったんだ。 ずっと、友達だと信じていたから。 一馬がもたらした春の死は、私の怒りをさらに増長させた。 何一つ、春の事を知らなかったのだと、上辺だけの付き合いだったのだと、思い知らされた。 「空澄、何とも思わねーの?」 苛立ちを含ませた声音。 どうして一馬が怒っているのか私にはわからない。 「関係ないよ。元々いないし」 「あずっ」 ゆかりが咎めるように視線を向ける。 なんで?二人して私を責めるような目で見るの? 大体、ずっと春の事なんて話題にもならなかったのに。 .
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