1180人が本棚に入れています
本棚に追加
夏休みが終わって最初に来るものなーんだ?
それは、テストです。
なんでテストってこんなにあるんだろう。
こんなにテストばっかりやって、何になるのか。
年に一度で十分だと思う。
「体育祭も五回やるなら許せるんだけどなぁ」
そんな美穂の言葉に、つい同意しかけて、うんうんと頷いていたのを慌てて首を横に振って否定した。
「休み明けのテストが終わったと思ったら、中間テストだもんね。気持ちはわかるけど美穂は現実逃避しっぱなしだよ」
珍しく至極まともな事を言う葉月に、私は驚いた。
いつもの葉月なら美穂に乗っかって騒ぐところなのに。
「葉月、頭打った?」
「失敬な!至って普通です」
いやいや、普通ではないよ?
ん?普通なのか?意見としては普通だけど、葉月的に普通じゃないみたいな?
あれ?それって、葉月が普通でないって事?
……何が言いたいのかわかんなくなっちゃった。
「坂下、元気ないなぁ」
気が付けば傍に春がいた。
ビクゥっとその声に驚いた私に、肩を竦めて両手を拡げ「HA!」と外人の真似をして小馬鹿にした顔を私に向ける。
「……くそ春」
「あず、可愛い女の子がそんな言葉使ったら駄目だろ?」
おでこを指でツン、と押して、「テヘッ」と舌を出した春を、これでもかと精一杯冷たい目で見てやる。
「バカ春はおいといて、葉月なんかあったの?」
途端、葉月の眉根がギュッと寄った。
何かあったんだ。
それを問おうとして口を開きかけた瞬間、葉月は机をダン、と叩いた。
私だけじゃない、美穂も近くにいたクラスメイトも、ビクっとして葉月に注目する。
「いい学校出たってね、碌でもない人間に引っ掛かったら終わりなんだよ。
私は絶対、そんな人間になりたくない!
だから、賢い人間になるの。碌でもない人間に引っ掛からない人間に!」
…………はい?
全く以て意味がわからない。
「はづ…」
「おにぃみたくも、あんな女みたいにも、絶対ならないんだからー!」
興奮したのか葉月はそう絶叫した。
鼻息が半端なく荒い。
そんな葉月を、どうしていいのかわからないでオロオロする私の肩をポンと叩いて、春は耳元で囁いた。
「俺、退散するわ」
ず、ずるい。
去っていく春を睨み付け、視線を戻すと、興奮した葉月があらぬ方向を睨み付けていた。
ど、どうしよう。
その瞬間、救いのチャイムが鳴って、私は思わず安堵の息を吐いた。
.
最初のコメントを投稿しよう!