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「葉月の上のお兄さん、結婚するらしいよ。できちゃった婚で。それで機嫌が悪いんだよ」
葉月が席に戻るのを横目で見ながら美穂がそっと耳打ちした。
葉月がお兄ちゃん子だとは知らなかった。
兄弟の祝い事なのに素直に喜べない葉月を不思議に思う。
私は一人っ子だから葉月の気持ちはわからない。
兄弟がいるのも色々大変なんだろうな。
いない私からしたら、おかずの争奪合戦とか、悩みを相談したりとか、そんなメリットしか思い浮かばない。
でもきっと、居たら居たで一人っ子の私とは違ったデメリットもあるんだろうな。
隣の芝生は青く見える。
昔、春がそう言っていたのを思い出す。
あの頃は意味がよく分からなかったけど、今は分かる。
やっぱ春って賢いんだなぁ。
それから葉月は徐々に元の葉月に戻っていった。
中間テストに体育祭。
今しかできない事を一生懸命やろう、と言った春に触発されて、私も頑張った。
こういう言葉を口にする時の春は凄く真剣で、茶化す事はできない。
その一言に重みを感じる。
そして、不思議とそれに従いたくなる。
それは私だけではないみたい。
美穂も葉月もクラスメイトもそうで、釣られて頑張った結果、クラスの平均点は上がり、体育祭も大健闘で総合二位を獲る事ができた。
あっという間だなぁ、としみじみ思う。
入学式で春に再会してもう半年も過ぎただなんて。
反面、春と一緒にいるとたった半年?と思える程近しい関係に感じる。
いつの間にか一番近い存在になっていた。
当然今でもやっかみはある。
けれど、表立って嫌がらせはないし、気にしなければ気にならない程度で、春と付き合っていく上で、支障はない。
それ位なら昔からだから慣れっこなんだよね。
小学生の頃の春もそうだけど、一馬もだもん。
女子って、何か秀でた物を持ってる男子に惹かれやすいから。
スポーツの得意な一馬の時は、半端なかった。
中学に入って少ししてから、人気花丸急上昇に仲間入りした一馬は、とにかくモテた。
ゆかりなんて、怯えてしまうほどモテたあの頃は、それでも小学校から知っている人も多かったからうまく立ち回れたと思う。
私はゆかりの傍を絶対離れなかったし、一馬も途中から気付いてゆかりから目を離さなかった。
両思いなんだから、あの時にどちらかが告白していれば今頃普通に恋人同士になれたのに。
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