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ちらりと隣を覗けば嬉しそうにキョロキョロと辺りを見渡す横顔が目に入った。
何だってこんな事に。
小さくため息をつけば、反対隣からキャイキャイと騒ぐ、違った意味でテンションの上がった友人たち。
大丈夫かな。
すでに後悔しつつある。
ゆかりの学校の文化祭に一緒に来たことを。
何で話しちゃったかな、私。
今日はゆかりの大切な日なのに。
昨日の昼休みだった。私の携帯電話が鳴ったのは。
相手はゆかり。
『やったよ!選ばれたよ!私、一馬に告白する!』
どこからかけてきたのか分からないけど、おかしなエコーの掛かった声だった。
「良かったね。私も明日、行くからね。一馬と行くから」
『うん!あずが来てくれたら心強いよ。怖いけど、頑張れる』
一馬の返事なんて分かり切ってる私は、ゆかりの緊張が微笑ましく感じる。
「大丈夫だよ、きっと」
言っちゃいたい気持ちをぐっと堪えて、私はゆかりにエールを贈った。
それを傍で聞いていたのだ。
春と、美穂と、葉月が。
で、結果三人も一緒に行くことになり、一馬を含めた五人で校門をくぐった。
「女子校って、何か変に興奮する」
わけのわからない事を言い出した一馬のすねを蹴飛ばす。
「他校、てだけでわくわくするよね。入っちゃいけないとこに入って悪い事してる気分」
なんだ、そりゃ。
「ねぇ、お願いだから問題起こさないでよ?」
「あずっ、失礼だよ!問題なんて起こすわけないじゃん。………あ!ストラックアウトあるよ!やりたいっ!私やりたい」
私の服を、がっと掴んで目をキラキラさせた美穂にしばし固まる。
初めからこんなで、大丈夫なの?
「わかったよ、い…ぃ」
すでに美穂と葉月は九分割されたボードに向かって走りだしていた。
「……返事くらい聞いてよ」
刹那、一馬と春が噴き出して笑う。
「空澄、振り回されてんなぁ」
「この三人いつもこうだから。本当、飽きないよ」
「うるさい」
じっとりと二人を見やると、春は肩をすくめた。
「良かったな、空澄。いい友達できて」
私の肩に腕をがしっと廻して、一馬は笑んだまま私を見下ろした。
「まーね」
「お前、友達作んの下手くそだから、ゆかりと心配してたんだよ」
そーか。心配してくれてたんだ。
途端に胸の奥がぽわっと温かくなって、私は一馬を見上げた。
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