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「でも、一番はゆかりと一馬だよ」 春がいなくなって、私はしばらくの間、おかしくなっていた。 裏切られた憤慨と焦燥感。 持て余してた制御できない感情を、二人に発散した事もある。 けれど、ゆかりも一馬も傍にいてくれた。 一番近くに居た春がいなくなった心の穴は浅くなかった。 それを埋めてくれたのはゆかりと一馬だと思う。 こんな風に客観的に捉えられるようになったのも。 感謝してもしきれない。 大袈裟かもしれないけれど、二人が居なければ、人間不信になっていたかもしれない、と思う。 だから、二人は特別。 「素直な空澄もたまにはありか?」 「ありだよ。今日はすっごくいい日だから」 「何かあんの?ゆかりも昨日電話で『絶対に来て』て、何度も念を押してたし」 「それはぁ、秘密」 「秘密とか言ってる時点で何かあるの確定だし」 くっ、と顔を歪めて笑う一馬の背中をポン、と叩いて私は一馬の腕から抜け出した。 ヤバい、これ以上口を開いたらバラしちゃいそう。 そっと一馬から離れて春に近寄った。 「春は何から見たい?」 入り口でもらったパンフレットを開いて、話を変えた。 「……春?」 「なぁ、あず、俺は?俺は何番目?」 「はい?」 見上げれば少し不貞腐れたような視線とぶつかる。 「はっ、空澄、春の奴ヤキモチ焼いてるぞ?」 ケラケラ笑う一馬を見て、私は春に視線を戻した。 「そうなの?」 「そこ、訊くかぁ?」 「うるさい、一馬」 春は困ったような顔をして私を見下ろしている。 その瞳の奥に淋しさを見つけたような気がして、居たたまれなくなった。 「は、春が悪いんじゃん。勝手に居なくなるから。一馬とゆかりはずっと傍にいてくれたんだよ」 自分でも何で慌てたのかはわからない。 言い訳じみた事を言ってしまったのかも。 「……それって、俺が居なくなって淋しかったのを二人に慰めてもらってた、て事?」 「違っ」 違わないけど。 「ま、そーゆー事だ」 一馬にさっくり肯定されて、私は文句を言おうとした。 「かず…」 「あずーっ、おいでよ!面白いからやってみなー」 遠くから美穂が叫ぶ。その声で、私は言い掛けた言葉を飲み込んで、声のする方をちらりと見やる。 うわぁ、みんな見てるよ。 「あずーっ早くー!」 美穂に注目してた視線がこちらに向けられた。 はは、もう、他人のフリしてもいいかな。 .
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