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そして、始まった。 静かになった満員の会場に、司会の声が響く。 『ファーストプリンセスは一年四組、平野ゆかりさん!』 たくさんの拍手と歓声。 私も惜しみない拍手を送る。 「あず、知ってただろ」 耳元で呟くように言った春ににんまりと笑む。 「春、お楽しみはこれからだよ」 「お楽しみ?」 「見てて」 視線を舞台に戻すと春も同じように舞台に向き直った。 ここからだよ。 舞台の上には重厚なマントを羽織り、ティアラを頭に乗せ、緊張しきった面持ちのゆかりが立っている。 足が震えているのが遠目からでもわかる。 頑張れ、ゆかり。 あんたに待っているのは幸せだけなんだから。 六人のプリンス・プリンセスが揃うと最後のイベントが始まる。 それは『キス』だ。 プリンス・プリンセスが指名した相手にキスをする。 してもらうのではなく、するところに女子の逞しさを感じる。 指名された相手は必ず壇上に上がらなければならないらしい。 必ず、てところにも女子の逞しさを感じる。 だって選ばれたプリンス・プリンセスへのご褒美なんだよ? これを始めた人って、きっとゆかりのように片想いをしてる友人の告白の為に、一肌脱いだんだと思う。 なんて、私の妄想なんだけど。 ゆかりが言うには、今までキスをしなかったプリンス・プリンセスはいないらしい。 そこに実行委員の意地を感じる。 もはや伝統と化してるこのイベントで、ゆかりのように告白をする人も沢山いたんだろうな。 なんか、ロマンチックでいい。 『ファーストプリンセス、ご指名をどうぞ』 ファーストプリンスのキスが終わり、いよいよゆかりの番が来た。 ファーストプリンスの指名が女の子だったから、ゆかりが告白を避けないか心配になった。 お願い、逃げないで、ゆかり。 ちらりと一馬を見れば、私を見てニヤニヤしてる。 あぁ、そうか。ゆかりが私を指名すると思ってるんだね。 『………一馬』 スピーカーから講堂に響いたゆかりの声。 残念だったね、ご指名は私ではないんだよ、一馬。 自分の名を呼ばれた一馬は、目を見開いて、舞台に立つゆかりをロボットのようにぎこちなく見やった。 こんなに驚いている一馬を見たのは初めてかもしれない。 「一馬!早く行って!」 驚きすぎて微動だにしない一馬の身体を揺さ振る。 はっと我に返った一馬はゆっくりと席を立った。 .
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