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不安げな瞳で、ゆかりは舞台に向かう一馬を見つめている。
一馬の顔はこちらからは見えないけれど、きっと同じようにゆかりを見つめているんだろうな。
『ずっと好きだったの。小学生の時からずっと…』
ゆかり?マイクが声を拾ってるよ?
ゆかりは全く気付いてないみたい。
会場もシーンとして成り行きを見守っている。
『ばーか。俺の方が先にゆかりを好きになったんだよ』
……一馬も気付いてないよ。
完全に二人の世界になってる。
『だったらどうして言ってくれなかったの?』
『んなの、ゆかりに言わせたかったからに決まってるだろ。……やっと言ったな』
一馬はにんまりと笑んで、そしてゆかりの唇に口付けた。
刹那、歓声が響き渡る。
「おめでとーっ」
「良かったね!」
そんな祝福の声で二人は我に返ったみたい。
はっとして、観客席を見て、そしてこれ以上ないくらい顔を真っ赤にして。
一馬はゆかりの手を引いて舞台の袖に隠れてしまった。
「ちょー、何これ!めちゃめちゃドラマチックじゃん!」
興奮する美穂と葉月に、いつもなら静かにしてと諫める私も、うんうんと相づちを打つ。
「これか」
納得したように私を見た春に、笑顔を返した。
「やっと、くっついたよ。長かったなぁ、本当」
「あずは二人の気持ち知ってたんだ」
「見てればわかるよ。昔から一馬はゆかりの傍から離れなかったじゃない。一馬なりに他の男子に牽制してたんだよ」
「もっと早くくっついても良かったんじゃね?」
「春がそれ言う?二人は私の為にそれができなかったんだよ。今までくっつかなかったのは私と春のせいだよ」
ゆかりも一馬も自分の気持ちより私を心配を優先してくれていた。
本当にかけがえのない大切な友達。
二人がくっついて一番ホッとしたのは私だろう。
両想いだとわかっているのに見てることしかできないのは本当に辛かった。
「……良かった」
視界が潤む。
こんなところで泣きたくない。
けれど、春が私の顔を隠すように抱き寄せて、優しくあやすように頭をポンポンと叩くから。
泣いてもいいよ、なんて囁くから。
だから、私は堰を切ったように思い切り泣いてしまった。
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