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「春は私に何も言わなかった。病気も、転校も。……死ぬのも。それだけだよ」
関わりがない事に変わりない。
そこまでの深い関わりを拒んだのは、むしろ春だし。
けど、なんだろうね。
口ではそう言ってても、心にぽっかり穴が空いたような気がする。
ああ、そうか。
この先、一生春に会う事はない、て事なんだ。
「何で、転校するの言わなかったのか、聞くチャンスなくなっちゃった」
ポツリ、と呟くとゆかりが机の上に乗せていた手に、自分の手を重ねてきた。
………あったかい
春の手もあったかかったなぁ。
けれど、それも思い出でしかない。
もう、春に触る事もない。
会うこともない。
「あずぅ…」
泣き出したゆかりを、一馬が頭を撫でて慰める。
その一馬も涙目だ。
私は人としての何かが欠如しているのかもしれない。
だって、涙なんて一粒も出てこないし、同級生が死んだっていうのに、悲しくもなかったのだから。
どこかで信じていなかったのかもしれない。
だからかな。
高校の入学式、新入生の代表挨拶で彼の名前を聞いた時、あんまり驚かなかった。
驚いたよ?何で?て。
けれど、死んだはずの人間がいる、て程のそれではなかった。
壇上に立つ、春の面差しによく似た彼を見て、懐かしく思ったのも事実で。
懐かしく思ったその後で、忘れていたムカムカを思い出したのも事実だった。
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