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いやいや、と葉月は首を横に振り、千尋さんから離れない。
抱きついていると言うよりしがみついてる、て感じ。
「葉月の上のお兄さん、今度結婚するんです。できちゃった婚なんですけど、その相手が葉月、気に入らないみたいで」
「あの女は蛇だよ!毒蛇!」
酷い言われようだな。
見たこともない、お兄さんの婚約者が可哀相になってきた。
何となくだけど、要点は掴めてきた。
葉月のお兄さんと千尋さんは昔付き合っていて、別れた。
千尋さんは他の男の人と結婚して、葉月のお兄さんも今度結婚する。
葉月は千尋さんの事が好きで、今のお兄さんの婚約者は好きではない。
だから、千尋さんによりを戻してほしいと思っている。
全くもって無理な話だ。
もっと前ならともかく、お互いに新しい道を歩んでしまっているのだから、戻りようがない。
「そっかぁ、有くん結婚するんだ」
この臨場感あふれる空気の中、呑気にそう言った千尋さんは、ある意味大物だと思う。
「私は千尋ちゃんがいいの!あんな女やだっ。千尋ちゃん、昔言ってたじゃない。おにぃと結婚するって」
「……それは初耳だね」
あ、後ろのイケメン不機嫌になってる。
「そ、それは十八歳の時の話で」
千尋さんは逆に慌てだした。
「私、あの時からずっと千尋ちゃんがお姉ちゃんになるの、待ってたんだよ!」
泣き喚く葉月と慌てる千尋さんと不機嫌なイケメン。
怒る美穂と傍観する私と春。
収拾つくのかな。
「葉月、いい加減にしなよ。あんたが何言ったって変わんないんだから諦めな」
「はぁ?美穂は関係ないじゃん。黙ってて」
おいおい、二人が喧嘩してどうすんの。
「坂下、お前も関係ないんだよ」
そう、穏やかに言ったのは春だった。
「結婚や恋愛なんて家族とするもんじゃなくて、本人同士の問題だろ?坂下が口出すことじゃないんじゃないか?」
「………」
黙り込んだ葉月に春は続けた。
「それにさ、結婚するとまで言ってた二人が別れたのだって、二人の間にしかわからない何かがあったからだろ?きっと簡単じゃなかったと思うけどな。
本当は坂下もわかってるんだろ?ただ、気持ちが追い付かないだけで」
春、なんか格好いいよ。
葉月もきっと反省してる。
興奮して自分がしちゃったこと、後悔してる。
黙り込んだ葉月がそう言ってる気がした。
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