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「葉月ちゃん、ごめんね。私、葉月ちゃんのお姉ちゃんにはなれない」
「―――っ」
「私、この人の事が凄く好きなの。だから、結婚したの。きっと有くんもそうだと思う。
あの頃は本気で有くんと結婚するつもりだったんだよ。心変わりしたのは私なの。本当にごめんね」
「おにぃの事、…嫌いになったの?」
千尋さんは首を横に振った。
後ろのイケメンの眉がピクリと動いたのを見ていたのは私だけだと思う。
「有くんの事は今でも大好きだよ。葉月ちゃんも大好き。でも、もっと好きな人ができたの」
「それがこの人?」
「そう。有くんもきっとそうだと思うよ?私よりその人を好きになったんだと思う」
葉月は気まずそうに唇を噛んだ。
「千尋ちゃん、幸せ?」
「とっても」
「……おにぃもそうなのかな」
「きっとね」
やっと落ち着いたみたいだ。
そっか、葉月はずっとお兄さんの婚約者を嫌だと思ってたんだ。
だんだん普通になっていったから、解決したんだと思ったけどずっと平気なフリをしてたんだね。
「千尋ちゃん、こんなおじさんの方がいいんだ」
途端、千尋さんは吹き出した。
ああ、後ろのイケメンの笑顔が怖い。
「きっと、うんと先にボケちゃうよ?下の世話とかさせられちゃうんだよ?おにぃなら同じ年だからそのリスク少なくなるのに」
「う、うん」
千尋さんは困ったように返事をした。
それ以上何か言ったらイケメン、キレちゃうんじゃないかな。
違う不安と、他人事のドキドキ感を楽しんでる私は酷いかもしれない。
でも、さっきの一馬たちもそうだけど、この二人も羨ましく思う。
愛し愛されるってどんな気分なんだろう。
私は愛する事も愛される事もまだ知らない。
それはとても幸せな気分なんだろうな。
結婚なんてきっと、甘い砂糖菓子のように毎日毎日ふわふわで甘々でとろけるようで。
それだけじゃない、苦しさや切なさを伴に乗り越えて、端から見たら甘々に見えるのだと気付くのは、もっと先の話。
今は、まだ、おとぎ話のハッピーエンドだけなのだと、私は信じて疑わなかった。
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