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「葉月ちゃん、て言ったかな」 不意に後ろのイケメンが千尋さんの前に出た。 とうとうキレたのかな。 葉月、酷い事言ってたもんね。 「僕等も有くん等もね、ここまで来るのに色々あったんだよ。決して楽で簡単だったわけじゃない。 君が普通の高校生ならそれ位の分別がついてもいいと思うのだけれどね」 あ、さっくり毒吐いた。 しかも、何だ?あの笑顔。 事情を知らずに見たのなら、顔を赤くしていたかもしれない。 でも、私はずっと見ていたからこの笑顔がとんでもなく嫌なものな事に気が付いた。 葉月の負けは確定。ならば、ここからはただのいじめだ。 イケメンもさ、葉月の言う事なんて流しとけばいいのに。 外側だけで性格は大人ではないのかもしれない。 …あ、そうか。葉月じゃないんだ。 葉月の言葉に対する千尋さんに反応しているんだ。 この人の言う通り、色々あって今があるんだろう。 私達にだってそれはある。 誰にだってある。 けれど、私達より長く生きてる分だけ、その『色々』を多く経験してる。 だから大人なんだろうな、なんて思った。 「葉月、それ位にしときなよ」 「あずまでっ」 「違うよ。後から葉月が後悔するのわかってるから止めてるんだよ。美穂も春もそう」 葉月の背中を宥めるようにポンポンと叩く。 そして私は千尋さんに向き直った。 「葉月が大変失礼しました。私からも謝ります。ですからこれ以上葉月を虐めるのはやめてください」 最後の一言はイケメンに。 途端、面白そうに笑んで私を見た。 「よくわかったね」 「…客観的に見ていればそれなりに、ですけど」 「ふっ、いい目をしている。将来が楽しみだね。名前を聞いてもいいかな」 「人の名前を訊くときは、まず自分から、ですよ?」 こういうやり取りは嫌いじゃない。 映画で見た駆け引きみたいで面白い。 同級生だとできないけれど、大人が相手ならできちゃうんだよね。 もっとも、相手を選ばないと大変な事になるけれど。 この人は大丈夫だと思った。 甘ったるい眼差しを千尋さんに向け、他にはたいして興味を持っていないようなイケメンは、その冷徹さを披露するのは千尋さんに害が及んだ時だけ。 ただ、すぐにムキになる葉月や美穂には無理だ。 あえて言うなら春とのやり取りを見てみたい気もする。 .
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