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「なんて、年上の方に失礼な事をするほど子供ではないので。
木下空澄です。葉月とは高校が同じなんです」
「君は面白い子だね」
その言葉ににっこりと笑んだ。
お店をやっているからお客様のあしらいは小さな頃から見てきた。
両親が仕事をしている間、沢山の映画を観てきた。
人の心理なんて、現実も映画も大して変わらない。
それに、この人達とはこの先関わることはないだろう。
だから後の事を考えずに言えるというのもある。
「友達を庇って矛先を自分に向けて、それで守っているつもり?」
その瞳は猫みたいだと思った。
小さな鼠をいたぶって遊ぶ猫。
思ったより葉月はこの人を不快にさせたんだろう。
それとも、私の言動によって火に油を注いでしまったのかもしれない。
「隆くん」
嗜めるようにして千尋さんがイケメンの袖を引く。
「守ってるつもりです。少なくともあなたに葉月が傷つけられるよりはましかと思いまして。
千尋さんの代わりにあなたが前に出てきたのだから、こちらも選手交代で構いませんよね?」
「傷つけるつもりはないよ」
「そうかもしれませんね。私達、友人を待たせているのでそろそろ失礼します。引き留めてしまってすみませんでした。葉月、千尋さんに言うことある?」
私がイケメンと話している間に葉月は落ち着いたらしい。
千尋さんを見て、泣きながら笑った。
「千尋ちゃん、困る事言ってごめんね。お幸せに」
刹那、千尋さんも顔をくしゃりと歪めた。
「ごめんね、葉月ちゃん。約束、…守れなくて」
申し訳なさそうな声音。
そして千尋さんは葉月を抱き締めた。
いつも元気な葉月が小さく弱い子供に見える。
それだけ葉月にとって大切な人なんだね。
私にとっての相原さんみたいなものかなぁ。
もし相原さんがお兄ちゃんになってくれる、て約束してて駄目になったら私もきっと駄々をこねると思う。
葉月は淋しかったんだね。
きっとお兄さんがどんな人を連れてきても同じなんだよね。
千尋さんじゃないなら。
いつまでも離れない葉月を、美穂が剥がして慰めている。
「君が僕の部下だったら面白いのに」
ふと、私に向かって呟くイケメンに、私はにんまりと笑んだ。
「何言ってるんですか。奥さん以外の人間に興味ないくせに」
目を瞠るイケメンに頭を下げて、私達は講堂を出た。
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