18/20
1179人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
「あずぅーっ」 講堂を出ると、待ち構えたようにゆかりが駆け寄ってきた。 「遅い!」 「あは、ごめん。葉月の知り合いに会って話してた。ゆかり、おめでとう」 心からのお祝いの言葉。 長い間、変わらずにいた想いが実った事が本当に嬉しい。 「あ、ありがとう」 照れて顔を赤くしたゆかりが可愛くて、にまにましてしまう。 「変な顔」 ゆかりの後ろからナイトの如く一馬が顔を覗かせた。 「煩いよ、一馬。あんたの顔も緩んでるし」 「そりゃ、幸せ絶頂だからしょーがねーな」 ……臆面なく言うかな。 なんだろね。ゆかりみたいに照れたりされると、おめでとう!てなるんだけど、どうだ!みたくされちゃうと祝いたい気持ちが素直に出てこなくなる。 「はいはい。良かったね、一馬」 「心がこもってねーなぁ」 そんな言葉とは裏腹に、終始ご機嫌な一馬は放って、私はゆかりに向き直った。 「今からどうするの?」 「当番もないからもう自由だよ。最後に陸部に顔出すけど」 「一馬と二人で回る?別行動でも構わないよ?」 そう言った私に、ゆかりは笑顔で頷いた。 一瞬、少しだけ淋しそうな顔を浮かべたのを私は見逃さなかった。 首を傾げる私に、ゆかりはふっ、と小さく笑う。 「大丈夫なんだね」 「何が?」 「んー、私と一馬だけじゃなくなったんだなー、て思って」 ますますわからなくて、私はもう一度首を傾げた。 「友達。ちゃんとできたんだなー、て。それとも十和田君がいるからかな」 「春?違うよ。美穂と葉月がいるのもあるけど、せっかく付き合う事になったんだから二人にしてあげよう、ていう私の優しさだよ」 「おー、優しいなぁ、あず」 ちっとも思ってないくせに。 一馬をちらりと見やって、私はゆかりの肩を叩いた。 「二人で回って来なよ」 「うん。そうする」 そうしてゆかりと一馬と別れて、私達四人で文化祭を楽しんだ。 散々歩いて食べて観覧して、美穂たちとも駅で別れて、私と春二人だけになった。 「疲れたけど楽しかったね」 「あずは体力なさすぎ」 「運動部の三人と同じにしないでよ」 唇を尖らせて言うと春は笑って私の頭をぽんぽんと叩いた。 「確かにそうだ」 「でしょ?」 またぽんぽんと宥めるように頭を叩く春の手を捕まえて、私は春を見上げた。 .
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!