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「あずぅーっ」
講堂を出ると、待ち構えたようにゆかりが駆け寄ってきた。
「遅い!」
「あは、ごめん。葉月の知り合いに会って話してた。ゆかり、おめでとう」
心からのお祝いの言葉。
長い間、変わらずにいた想いが実った事が本当に嬉しい。
「あ、ありがとう」
照れて顔を赤くしたゆかりが可愛くて、にまにましてしまう。
「変な顔」
ゆかりの後ろからナイトの如く一馬が顔を覗かせた。
「煩いよ、一馬。あんたの顔も緩んでるし」
「そりゃ、幸せ絶頂だからしょーがねーな」
……臆面なく言うかな。
なんだろね。ゆかりみたいに照れたりされると、おめでとう!てなるんだけど、どうだ!みたくされちゃうと祝いたい気持ちが素直に出てこなくなる。
「はいはい。良かったね、一馬」
「心がこもってねーなぁ」
そんな言葉とは裏腹に、終始ご機嫌な一馬は放って、私はゆかりに向き直った。
「今からどうするの?」
「当番もないからもう自由だよ。最後に陸部に顔出すけど」
「一馬と二人で回る?別行動でも構わないよ?」
そう言った私に、ゆかりは笑顔で頷いた。
一瞬、少しだけ淋しそうな顔を浮かべたのを私は見逃さなかった。
首を傾げる私に、ゆかりはふっ、と小さく笑う。
「大丈夫なんだね」
「何が?」
「んー、私と一馬だけじゃなくなったんだなー、て思って」
ますますわからなくて、私はもう一度首を傾げた。
「友達。ちゃんとできたんだなー、て。それとも十和田君がいるからかな」
「春?違うよ。美穂と葉月がいるのもあるけど、せっかく付き合う事になったんだから二人にしてあげよう、ていう私の優しさだよ」
「おー、優しいなぁ、あず」
ちっとも思ってないくせに。
一馬をちらりと見やって、私はゆかりの肩を叩いた。
「二人で回って来なよ」
「うん。そうする」
そうしてゆかりと一馬と別れて、私達四人で文化祭を楽しんだ。
散々歩いて食べて観覧して、美穂たちとも駅で別れて、私と春二人だけになった。
「疲れたけど楽しかったね」
「あずは体力なさすぎ」
「運動部の三人と同じにしないでよ」
唇を尖らせて言うと春は笑って私の頭をぽんぽんと叩いた。
「確かにそうだ」
「でしょ?」
またぽんぽんと宥めるように頭を叩く春の手を捕まえて、私は春を見上げた。
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