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「ちびっこ扱いしてない?」 「してないよ」 でも、顔がにやついてる。 「…してるじゃん」 眉間にしわを寄せても、春のニヤニヤはそのままで。 私が掴んだ手を掴み直してそのまま歩きだした。 急に引っ張られて私は少し慌てる。 「ちょっ、放してよ」 「あずは本当に淋しくない?」 話が飛躍し過ぎてついていけない。 きょとんとした私をちらりと見やって、春は前を向いて歩き続ける。 スピードを私に合わせてくれるのは春の優しさ。 いつもそう。春は私に合わせてくれる。 昔からずっと。 「あの二人が恋人同士になって、あずは疎外感感じないか?」 「どうして?」 「この先、お前抜きで二人だけで会ったりとかするんだぞ?」 「そんなの当たり前じゃない?」 何でそれが淋しいに繋がるのかわからない。 会えなくなるわけじゃない。 友達である事も変わらない。 「平野はそう思っていないみたいだったけどね」 「ゆかりは心配してくれてるんだよ。そのせいで二人が付き合うのこんなに遅くなっちゃったんだ」 「逆にホッとした?」 「うん」 「そうか」 そう言って春は無言で手を引き続けた。 時々放すように言っても完全無視。 だから仕方なしにうちに着くまで春のしたいようにさせた。 うちについても、春が帰る様子はない。 「寄ってくの?」 「いい?」 「いいよ」 訊くなんて珍しいなぁ。いつもなら有無を言わさず勝手にあがるのに。 辺りはもう日が陰って薄暗くなりつつある。 夕飯の支度もしなくちゃいけないからあんまり時間はないけれど、そんな時の春は私に構わず本を読んでたりテレビを見たりしているから、私の邪魔をしないので助かる。 「なぁ、あず」 けれど今日は違った。 キッチンに立つ私のそばに春はいる。 「んー?」 野菜を刻みながら、返事だけした。 「何で黙って転校しなかったのか、訊かないの?」 「あぁ、それ?……うん、ずっと聞きたかったんだけど…」 私は手を止めて春を見た。 「春から話したいと思った時でいいかな、て」 「そっか」 「うん。いつか話してくれる?それとも大した理由じゃなかったのかな」 「大した理由だよ。けど今はまだ言いたくない。もう少ししたらちゃんと話すから、その時聞いてくれるか?」 「うん、待つよ」 春の眼差しが真剣で、少し哀しげだったから、私はそれしか言えなかった。 .
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