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桜の舞う季節。 私は新品の制服を纏って校門をくぐった。 堂坂高校。 それがこれから三年間通う予定の学校名。 一緒の高校に行く、と言っていたゆかりはいない。 一馬もいない。 一馬は元々サッカーの強い高校を志望していたので、望み通りの高校へ行った。 ゆかりはというと、親からの大反対を受け、親の望む私立の高校を受験した。 結局バラバラ。 私自身、ゆかりに言った高校とは違う高校を受験していた。 地元から少し離れた高校。 それは春のせいかもしれない。 『いいね、あの学校』 四年生のバス遠足。 隣に座っていた春が窓の外を見て呟いた。 『あそこ?』 大きな橋をわたっている最中だった。 川沿いには緑の葉をつけた木々が立ち並び、その向こうに見えた校舎の周りも同じような木がいっぱいあった。 『あれは桜だよ。きっと春になったら凄く綺麗だと思わない?』 そう笑った春の笑顔を思い出したのは、最後の進路志望の用紙を書く少し前だった。 あれが高校なのだと教えてくれたのは、当時の担任。 目的も、未来へのビジョンも持っていない私は、成績と相談して家から一番近い高校を志望していたのだけれど、堂坂高校へ変えた。 春の代わりに、なんて思うほど乙女ではない。 ただ、なんとなく堂坂に行ってみたいと思っただけ。 成績から言えばギリギリだったし、合格してからも大変なのは目に見えてたけど、ま、成るようにしか成らないからいっかぁ、と言うのが私の持論。 そうして、合格して今、私はここにいる。 ただね、残念な事に桜は見事に散って、新緑の桜に囲まれた入学式になったんだけどね。 入学式も終わり、先生に誘導されながら教室へ戻る。 知らない人ばかりだから、話をしないのは私だけではないと思う。 列をなしながら、ぞろぞろと体育館を出ようとした時だった。 「木下空澄」 後ろからフルネームで呼ばれ、振り返る。 にこにこ顔で私を呼び付けたのは、さっき壇上で挨拶をした、トワダハルミだった。 「木下、久しぶり」 久しぶり? 首を捻る。つい、立ち止まって列を乱した私に、そう言いながら歩くように促した。 .
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