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とりあえず借りたノートを必死で写した。
ねちねち先生は解答だけでなくて、数式も黒板に書かせるから、間違えないように写さないと、自分でやってないのがばれちゃう。
「…必死ですね、空澄さん」
話し掛けられても時間のない私には応える余裕はない。
「お願い、何にしよーかな」
楽しげに呟く春も無視。
「デートもいいなー」
「…………」
し、集中、集中。
しかし、書き写すだけでも時間が掛かるなぁ。
どれが当たるのか初めから判ってれば楽なんだけど。
「キス、しちゃおーかなー」
「…………」
頑張れ、私。
春の戯言に付き合ってる暇なんてないんだから。
「もっと厭らしい事でもいいなー」
「――――っ」
反応しちゃ駄目っ。
春は面白がってるだけなんだから。
「あずの身体にあんな事やこんな…」
「もーーっ、春っ!!」
無理です。限界です。
私にはスルーできません。
「だってお願い聞いてくれるんだろ?」
「私のできること!て言った!」
「どれもあずしかできない事だよ」
にっこりと笑む春に、私は固まる。
「……セクハラ」
固まったまんま呟くと、春はさらに笑みを深めた。
「違うよ。これは俺の願望」
「―――っ」
もう、無理。本当、太刀打ちできない。
何言っても口では勝てない。
いつもそう。
そうやって私をからかって、はずかしめて遊んで…。
私がいくら嫌だって言っても、春は私で遊ぶ。
怒っても、怒っても、春は私の嫌がる事をする。
でもね、私もこの八ヶ月間で春のセクハラには鍛えられた。
いつまでもやられっぱなしじゃないんだからね!
「春の部屋でならいいよ」
時間がないからノートに目を戻して書き写しながら言った。
………本当は春の顔を見ながらじゃ言えないから、だけど。
私は春が黙る最終兵器を知ってる。
春は私の部屋には入り浸るけど、決して自分の家には人を呼ばない。
何でかはわからないけど、私だけでなく、誰も家に人を上げたことがない。
昔は大丈夫だったんだけどね。
理由を聞いた事はない。
でも、春が避けてはぐらかすから、深く追求した事はないし、私が家の話を持ち出したのはこれが初めてだった。
でも、地雷には間違いない。
だって、それからチャイムが鳴るまで春は一言も話さなかったのだから。
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