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一限目が始まる直前に、私は春にお礼を言ってノートを返した。 無言の春に、地雷どころか禁句だったんじゃないか、て後悔する。 傷つけたいわけじゃない。 不愉快にしたいわけじゃない。 ただ、春が私にするように、ちょこっとだけ嫌がる事をしたかっただけ、……のつもりだった。 まさか、こんなに春を悩ませるなんて思ってなかった。 人との距離感、て凄く難しい。 自分にとっては何でもない一言でも、相手には大打撃だったりすることもある。 春も美穂も葉月も私をからかって怒らせるけど、K点を越える事はない。 うまいよね、みんな。 私はそこがとても下手なんだと思う。 だから人付き合いが苦手で友達が少ない。 素直じゃないしね。 授業が始まって静かな教室。 当てられた順番に、クラスメイトが前に出て問題を解いていく。 私の番もそのうちやってきて、春に写させてもらった解答を黒板に書いた。 「よし、木下正解だ」 言われても解いたの春だしなぁ。 苦笑しながら私は黒板に背を向け、席へ戻る。 「―――っ」 その時、春と目が合った。 真顔の春。 授業中だからかもしれない、にこりともしない春。 でも、いつもならきっと笑んでくれる。 もしかしたらさっき私が言ったことで怒ってるのかもしれない。 そんな不安を抱きながら席に着いた。 春が怒ったことなんてない。 私が酷い事言っても今までは笑って流してた。 怒らせた可能性にどんどん不安になっていく。 なんで、こんなに心を騒つかせなきゃいけないの? こんなことで春が怒るわけないじゃん。 なんて思ったりもするけど、気になってしょうがない。 ちらりと隣を見やれば、春は真剣な顔して前を見ていた。 ざわざわと心が騒ぐ。 何でこんな気持ちにならなきゃいけないの? 気持ち悪い。 言い表わせない不快な気分に、先生の話なんて聞いていられない。 聞いているフリをしていたものの、私の気はずっと隣に向いていた。 .
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