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それでも立ち上がってくれた春を促して、私達は人通りの少ない階段へ向かった。 「……………」 「……………」 「……………」 「……………」 何を話せばいいんだっけ? 謝るんだっけ? 怒る程の事ではない会話だったと思うけど、それは私の主観であって、春の物じゃない。 私の言葉で春が不快になったのなら、きちんと謝るべき。 そう思って、まず謝った。 「あの、……朝はごめんなさい」 春に向かって頭を下げる。 下げた目線の先に、春の上履き。 足、おっきいなぁ。 その足が一歩前に動いた。 私の心臓が一つ跳ねる。 「何であずが謝んの?」 「…………」 責めるような声音。 春、怒ってる。 私は顔を上げることができない。 一歩近づいた上履きから目を離せない。 嫌がるのわかってて言っちゃった私も悪いけど、そこまで怒らなくても、て思っちゃう。 あー、私ってつくづく嫌な人間。 「……ごめんなさい」 もう一度謝った。 少しでも許してもらいたいという打算から。 ずるいと思うけど、早く春の機嫌を治したかった。 どうしてこんなに心が騒つくのか。 春が不機嫌だと悲しくなるのか。 私にはわからない。 美穂や葉月に同じ事されたら、やっぱり慌ててしまうのかな。 「……本当に悪いと思ってる?」 刹那、私はビクッと体を震わせた。 春の言葉が図星だったのもあるけれど、両肩を掴まれたから。 「あず、俺を見て」 言われてそろそろと顔を上げた。 怒っているのかと思ったら、淋しそうな顔。 「……どうして?」 主語のない問い掛けが春に伝わるわけもなく、春は子首を傾げた。 「怒ってるんじゃないの?」 それで合点がいったのか、春は納得したような表情になった。 「怒ってないよ」 「だったら何で口聞いてくれなかったの?」 「はっ、そんなつもりはなかったんだけどな」 力なく笑う春に、今度は私が首を傾げた。 「うん、ごめん。謝るのは俺だ。あずが気にしてるのわかってたんだけど、どうにも気持ちの整理がつかなくて悩んでた」 .
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