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「あんた、誰?」
当然の質問だ。
だって、私の知るトワダハルミはこの世にはいないんだもん。
それに、春なら私を『あず』と呼ぶはず。
訝しむ私にトワダハルミは眉尻を下げた。
「忘れちゃった?小学校で五年も同じクラスだったのに」
再び足を止めた私の背を押して、トワダハルミは隣を歩く。
「………春なの?」
おずおずと隣を見上げれば、にっこりと笑みが返ってきた。
優しい、変わらない笑顔。
「死んだんじゃないの?」
「俺は生きてるよ」
俺?僕じゃないの?
やっぱり違う人?
でも、小学校で一緒だった、て言った。
何か、雰囲気も男っぽい。
春はもっと中性的だった。
「性格変わってない?」
「四年も経てばね」
確かにそうかもしれない。
小学校六年生の一馬と今の一馬もかなり違う。性格はずっと一緒にいたから変わったのかもわからないけど、写真で比べると、何て言うか、男になったんだと思う。
春も同じなのかな。
会わなかった分、変化が顕著なのかな。
「木下は変わらないね」
また、木下って言った。
やっぱり本人なのか怪しく思う。
「なんで名前で呼ばないの?」
「呼んでいいの?」
何故に訊く?
流れに乗って歩いていた。
もうすぐ教室だ。
春が何組かは挨拶で言ってた気がするけど、憶えていない。
だから、教室に入る前に疑問は先に訊いておこうと思った。
「いいよ」
トワダハルミはまたにっこりと笑んで言った。
「あず」
途端、広がったのは甘酸っぱいような、くすぐったい気持ち。
ああ、本当に春なんだ。
生きてた。
死んだなんて嘘だった。
だったら、私の取る行動は一つだけ。
私はにっこりと笑んでいるその顔を、思いっきりひっぱたいた。
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