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「やや、これ」
先輩看護士のこうださんが、何か持ってきた。
「…?何ですか、これ」
小さなえんぴつ。素朴な木でできた、2Bの普通のえんぴつ。
「これ、お前さんに、て。ねねさんが」
「え…」
何で、えんぴつなんか?
そして、私に?
「……」
聞けば、良かったな。
何でえんぴつなんですかー?とか。こうださんとは仲直りしましたから大丈夫ですよー、とか。
もっと、話せば良かったな。
「怖かった、んです」
「……」
こうださんば黙っている。
「ねねさんの部屋に行くの、怖かった。光に溶けて消えてしまいそうなねねさんを見てるのが怖かったん、です」
ぼろぼろぼろ。
言った途端、涙が玉のようにこぼれ落ちた。「うぇぇ…」
白衣をぎゅっと握って我慢しようとしたけど、だめ。
2号室の光に溶け込むような旦那さんとねねさん。
王子様とお姫様みたいな、綺麗な悲しい2人。
お母さんに二度と会えない子供達。
自分より先に死んでしまう娘を呼ぶ両親の叫び声。
「これが、病院だ。泣くなら休憩室で泣け」
ぽん、と背中をたたいて2号室に行った。死後の処置をするために。
看護師なのに、私もしなきゃなのに、だめ。命がないねねさんを、見る自信ない。小走りで休憩室に駆け込み、取り敢えず泣くだけ泣いた。
さよなら、ねねさん。
そしてごめんなさい。
ちゃんとお別れ出来なくてごめんなさい。
えんぴつ、ありがとう。
大事に、します…
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