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「あ…たしは、嫁には……。」
なれません、と言おうとした浮雲に奥方は首を振り、言った。
「いいのさ。 丁稚でも、いてくれるなら。」
少しの寂しさが混ざった笑顔は三郎太とそっくりで。
親子、と言う物を少し考えた。
「あ、髪を結わなきゃならないね。 顔も洗おうか。 いや、拭くだけで十分かね。」
当の本人を差し置いて、バタバタと人の世話を焼く所もそっくりで。
手拭いを持って出て行った奥方の背中を見ながら、浮雲はくすりと笑った。
(しかし、着物なんて久し振りだねぇ。)
浮雲は立ち上がり、二、三歩ほど歩いてみる。
大股では歩けないため、自然と淑やかな歩き方になった。
「………!」
今のは大分女らしくなかっただろうか、と浮雲は目を輝かせる。
彼女は体を売るのが嫌なだけで、けして女である事が嫌な訳ではないのだ。
実の所、同年代の遊女達が羨ましかった。
綺麗に着飾り、化粧をして。
まさに女の中の女として人を惑わし、花魁を目指す。
それに比べ自分は、と劣等感を抱いていた。
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