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でも、今自分は、派手ではないがちゃんとした着物を着て、お淑やかに歩いている。 これなら、自分だってここの看板娘として人気を博して、皆に可愛がって貰って。 そして、『誰か』と―――……。 そこまで考えて、浮雲は現実に戻って来た。  (いやいや、あっしは算盤弾く為に吉原を出たんだ。 顔で売れたいなら吉原の方が金になる。 その辺りきちんと弁えなきゃね。) 浮雲が再び座った時丁度奥方が戻って来た。 奥方は濡れた手拭いで浮雲の顔を拭こうとしたが、彼女に自分でやります、と断られた為、残念そうに手拭いを渡す。 強めに擦りつつ、汚れを拭き取ると、浮雲は見違えた。 本来の白い肌を取り戻し、擦り過ぎの赤みも、子供らしさがあり、彼女の顔や雰囲気に見事、合っている。 奥方は暫く見とれてから、我に返り、櫛を持ち出して彼女の髪を解かした。 最初こそ引っ掛かったり、なかなか櫛が通らなかったりしたものの、やがては跳ねや塊の無くなった、肩まで真っ直ぐ伸びる髪になった。
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