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「そう、挨拶にはちゃんと挨拶で返さないとな」
師匠は満足したらしく、そのまま通学路を歩き出した。
「ちょ、師匠?」
慌てて後を追いかけ横に並んで歩くと、それを待っていたとでも言わんばかりに師匠は口を開いた。
「良太は母君と仲が良いんだな?楽しそうな声が外まで聞こえてたぞ」
「はぁ?どこを聞いたらそんな感想が出てくるんだよ。別に仲良くなんかは……ないって」
「そうか。良太がそう言うんなら、それでいいか」
フッと息を吐くと、師匠は二歩前へと飛び出し踵を返し、僕の前に立ち塞がった。
「良太。今日はゴミ拾いをするぞ!」
突拍子もなくそう言う師匠に、僕は笑って頷いた。
「いいね。今日は天気も良いし、絶好のゴミ拾い日和だ。って、それを言いにわざわざ俺んちの前で待ってたのか?」
「そうだな。まぁ、そんなとこだ。ついでにゴミがよく落ちているスポットでも見つかればと思ってこの辺りを散策していたんだが、流石に良太のテリトリーだけあって我が校の通学路だというのにゴミ一つ落ちてなかったよ」
「ああ。登下校の時はビニール袋携帯は当たり前だろ?」
制服のポケットからビニール袋を取り出すと、師匠と僕はニヤリと笑い合った。
「本当に、お前とは不思議なくらい気が合うな。この喜びを共感できる人間と出会えるなんて、私は思ってもみなかったよ」
奉仕活動。
僕と師匠は、この活動に関して唯一無二の理解者同士だった。
「よし、良太。今日の放課後奉仕活動は学校内でゴミ拾いだ。拾っても拾ってもきりがない。校庭を大きなゴミ箱だと勘違いしているクズ野郎ばかりの我が校に感謝の気持ちを込めてな!」
師匠はいつでも、前を向いている。
背筋を伸ばし、胸を張り、声を上げて満面の笑みでどんなことでも笑い飛ばす。
そんな姿を見ていると、僕もつい、つられて元気の良い返事なんかをしてしまう。
「はい、師匠!」
そんな自分が、最近ちょっと好きになっている。
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