背中曲がってるぞ

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                 「勘違いするな良太。私は誰の前でも平気で着替えをするような女じゃない。良太になら見られても平気なだけだ」 「残念ながら、俺は平気じゃないんで」 本当に残念ながら。 「そうか、それは残念だ。もういいぞ、良太」 衣擦れ音が止み、師匠がそう言うのでもう一度恐る恐る振り向くと、今度こそ本当に師匠は着替え終わっていた。 上はジャージ、下はクオーターパンツ。ジャージの袖を捲ったその格好は、なんだか凄く良い意味で似合っていた。 「さて、じゃあ良太もジャージに着替えるといい」 なんとなく予想できたけど、師匠は何の臆面もなく、そう言って椅子に腰を下ろした。 「ん?どうした良太?まさか制服のままゴミ拾いをするのか?別に構わないが、服を着替えるというのは気分を切り替えてやる気を出すという意味でも有効だぞ?」 絶対解ってて言ってるんだろうな、この人は。 「……トイレで着替えてきます」 「ふふ、良太は本当に可愛いな」 そう言う師匠も顔は可愛いから時々困ってしまう。 僕は苦笑いで、体操服入れを抱えてトイレへ向かった。 「ところで良太。今日はまたどんな理由で職員室に呼び出されたんだ?」   僕もジャージに着替えて戻って来ると、掃除道具入れを漁りながら師匠は尋ねてきた。 「来るのが遅れたからって呼び出しだと決め付けないでくれよ」 「うん?となればまさか、女子から告白でもされていたのか?」 「極端だな。俺に話しかけようなんて女子はそうそういないよ」 最近じゃ目の前に一人いるくらいだ。 「じゃあ、何をしてたんだ?今朝はあんなにゴミ拾いを楽しみにしてたのに」 「いや、教師に呼び出されてたんだけどさ」 「そらみろ」 ニヤリと笑って、師匠は僕に軍手を一揃い投げ渡した。
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