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だが、どうやって返す?
手紙を開けなければ、手掛かりは宛名のみ。
その女子生徒に代わりに渡してあげるのは簡単だが、それだと落とし主は代わりに渡した人の存在に気付く。
無理だ。落とし主に気付かれずに返すどころか、これじゃ誰が落とし主なのかを突き止めることすら叶わない。
一体どうすれば。
「良太、背中曲がってるぞ」
下を向いて考え込む僕に、師匠は背中を叩いて言った。
「背筋を伸ばせ!胸を張れ!前を向いて歩け!いやむしろ上を向いて歩け!下見がちなお前にはそれくらいがちょうどいい」
「は、はい!」
慌てて姿勢を直すと、師匠は僕に肩を組んで顔を近づけた。
「まず、お前はどうしたいんだ?」
「お、俺は……手紙を落とし主に返してやりたい。できれば誰かが拾ったことに気付かないように」
「そうか。良太は優しいんだな」
師匠は僕の耳の横で、小さくそう囁いた。
「お、俺は別に!」
「安心しろ、誉めてるわけじゃない。ただ、私はその優しさが好きなだけだ」
誉められると怒る。
僕のその悪癖をさらりと受け流し、師匠は立ち止まる僕から離れた。
「じゃあ、開けるぞ」
「へ!?何でそうな……」
僕が制止する間もなく、師匠は躊躇なく便箋を開けた。
「差出人が分からないとどうしようもない。どうせ気付かれないように返すんなら、内容を読んだって同じことだろう?要は最終的に何もなかったことにすればいいんだよ」
「た、確かに」
こうと決めたら真っ直ぐ突き進む、迷いの無さ。
僕が師匠から学ばなきゃいけないのはそういうところだ。
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