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「おお、良かった。文末に差出人の名前があるぞ」
「え、ホントか?」
「ああ、私の知っている名前じゃないが、同じ二年なら良太は聞いたことがあるかもしれないな」
師匠から手紙を受け取り、拙いけれど直情的な想いが綴られた文章を流し読み、最後に書いてある名前を頭の中のクラス名簿と照らし合わせた。
「矢部利典。こいつかよ」
知っている。
こいつは、僕と同じクラスの生徒だ。
「なんだ、知っているのか。なら好都合だな。まだ部活で残っている生徒は多いが、今日中に返しに行けそうな奴か?」
「師匠。これ、どこで拾った?」
「ああ、第二体育館の近くだ。心当たりがあるのか?」
「多分、体育館の裏あたりで探してると思う。さっき俺、こいつが校門から入ってくるの見たし」
「一度下校したものの、この恋文が無くなっていることに気付いて戻ってきたということか。なら、さっさとゴミを片づけて行くとしよう」
「あ、ああ。うん」
手紙を僕の手から抜き取り、綺麗に畳んで元通り便箋に戻しながら、師匠は意気揚々と歩き出した。
「ほら、あいつだよ。手紙の差出人」
ゴミを捨て早足で第二体育館裏へ来ると、予想通りそこには矢部が必死になって落し物を探していた。
「これはこれは。まさかあいつがこんなピュアな恋愛をしているとはな。世の中は不思議なことでいっぱいだ」
素直に驚きながらも、師匠は心底楽しそうに言った。
「で、どうするんだ良太?相手はあの因縁の不良優等生だが、それでもお前は彼を傷つけないよう、気付かれないように手紙を返す気か?」
そう。手紙の主である矢部利典は、僕が師匠と出会ったあの日、僕の左腕を掴んでいた不良優等生Bだ。
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