背中曲がってるぞ

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   「ああ。あいつには師匠と引き合わせてくれた借りがあるからさ。それに、これも奉仕活動だろ?」 僕は左手で腫れた頬を押さえながら、右手で師匠の手を握った。 「そうだな。人知れず善いことをして、そんな自分に酔いしれる。これぞ奉仕活動の醍醐味だ。しかし」 師匠は僕を引っ張り上げると、左手でデコピンを食らわせてくれた。 「良太は不器用すぎる。もっと他にやりようがあっただろう?」 師匠が腫れた頬に触れる。 じんじんと痛む頬にはそれがひんやりとしていて、とても暖かかった。 「私が矢部の鞄に手紙を入れる時間を稼ぐだけでよかったんだ。殴られなきゃいけないわけじゃなかった。お前はもっと、自分を大切にすべきだ」 「いやぁ、俺ってドMだからさ」 珍しく真剣な顔をした師匠にどう答えていいか分からず、僕は笑って誤魔化した。 「まぁ、今はそれでいいけどな。近いうちに直さないといけないな、その卑屈さは」 やれやれといった風に笑うと、師匠は空を見上げた。 「もうすぐ、春も終わりか」 そう言ったきり、彼女は名残惜しそうな目で赤い空を見つめ続けていた。
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