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六月になると、まるでそれを待ち構えていたのかのように、雲が太陽を覆い隠す毎日が始まった。
毎日毎日雨ばかりで、地面も空気も壁も床も木製の机もなんだかじっとりとしていて、うら若き乙女の気分もじっとりと憂鬱になりがちな梅雨日和。
意外にもそれは、この人も例外ではなかったらしい。
「お、見ろよ師匠。雨止んだみたいだ」
灰色の窓の外、どこか元気の無い校庭を眺めると、雨粒の波紋を映し出す水溜りは一つも無かった。
「おー、そうか」
師匠は机に突っ伏したまま、覇気のない声で答えた。
「ほら、やっと外に出て奉仕活動ができるぜ?邪魔な水溜りを埋めるとか、雨漏りしてる武道場の屋根を直すとか」
「あー、そうだなー」
心ここに在らず、といった様子。
一体どうしたってんだ師匠。普段の師匠なら梅雨すらも吹っ飛ばす勢いで外に駆り出すだろうに。
「どうした師匠?まさかアノ日か?」
すると師匠は顔を上げ、じとっと梅雨に相応しい目つきで僕を睨んだ。
やばい、怒られる。
「……まぁ、そんなとこだ。だからしばらくそっとしておいてくれ」
しまった、本当にそうだったのか。
そう言われてしまっては、男の子としてしかこの十六年と少しを生きていない僕には俯いて肩身を狭めることしかできない。
僕は黙って、部室の隅っこの椅子に腰を下ろした。
それから数分間の沈黙が部室を支配し、校庭にあるスピーカーから流れる放送がそれを破った。
『えー、生徒会からの連絡だ。二年二組イリオモテコウ。生徒会室に来なくていい。そこを動くな。その場で立ち止まり体育座りでもして待ってろ。繰り返す。二年二組イリオモテコウ。今すぐその場で体育座りをして待っていろ。絶対に動くんじゃないぞ』
そんな意味不明な放送をしたのは、全校集会などで聴き覚えのある声だった。
確か、生徒会長の声だったか。
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