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「ナンパ邪魔されたのは冷めたけどよ、こんだけの収穫ならチャラだな。うへへ」
「ようし。取るもん取ったんならお前らもこっち来い。こいつ結構めんどくせえよ」
「へいへい。さっさとボコッてなんか食いに行こーぜ」
財布を尻ポケットに仕舞い、そいつは呑気に腰を上げる。
気持ち悪い。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
僕にはどうしようもなく、感情や理性で制御する余地なんて微塵もなく、僕の拳は固く握られた。
「その金にも財布にも、触るんじゃねぇよクソ共がああああ!!」
叫び終わった時には、そいつはまだ立ち上がりきってはいなくて、そいつの目の前に僕は立っていて、僕の右腕は思いっきり振りかぶられていた。
そのままで良かったのかはわからない。
もしかしたら、何も考えず感情を全部右拳に乗せて叩き込めば良かったのかもしれない。
けれど僕は、今から殴り倒さんとする相手の引き攣った顔を見た途端、激しい不快感に襲われた。
気付いた時には、僕の左手が震える右手を抑えつけていた。
できなかった。
僕は何があっても、例え何を失っても、昔のように戻るわけにはいかなかった。
誇りや尊厳や評判や泡銭くらいだったら、僕は今まで躊躇いも無く投げ捨ててきた。
だけど。あの財布とお金だけは、あっさり手放すわけにはいかない。
いかないのに、僕の身体にようやく力が入り身を起こした頃には、三人組の姿は体育館裏にはなかった。
腫れた頬と身体のあちこちにある痛みが、僕の動きを鈍くした。
「また殴らせたのか?良太は本当にマゾだな」
困った奴だとでも言いたげに、師匠は笑いながら僕を見下ろした。
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