それがお前の強さだ

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         「ごめん、師匠。今日は持ち合わせがなくてさ。あんまん、食べに行けそうにないや。ごめん。本当に、ごめん」 師匠に合わす顔が無くて、母さんに合わす顔も無さそうで、僕は悔しさと恥ずかしさを抑えきれず、左手で両目を覆った。 「良太。お前、本当は喧嘩強いだろ?」 僕は強くなんてない。 数少ない大切な物すらあっさり手放してしまう僕が、強いはずなんてないんだ。 「暴力は、嫌いだ」 「解ってる。それでいい。良太はそれでいいんだ」 師匠は僕の正面に屈み、目の高さを合わせて話した。 「大切な物を守ろうとした気持ちも、どれだけ憎くても相手を殴らなかった良太の信念も、私は肯定するよ」 「何で、知って……」 師匠は両目を覆った僕の左手を優しく握り、 ゆっくりと剥がした。 涙で滲む視界には、僕の悔しさも恥ずかしさも後ろめたさも全部包み込んでくれるかのような、そんな優しい女の子の笑顔があった。 その笑顔に見とれていると、左手に覚えのある手触りを感じた。 僕の大切な、母さんからもらった財布だった。 「良太。それがお前の強さだ」 「師匠……これ」 確かに、僕の財布だった。 さっきあいつらに盗られたはずの財布を、師匠は取り返してくれていた。 「あんまり大きな声で叫ぶものだから、聴こえていたさ。その財布とお金は、特別な物なんだろ?」 僕は財布を握り締め、思わず目の前の女の子を抱き締めた。 「畜生、いい女過ぎるぜ師匠。ありがとう」 「おお、結構大胆だな良太。だが、この私に礼は要らない」 師匠はゆっくりと俺から離れ、立ち上がった。 「礼は要らないから、あんまんを奢れ。ほら、さっさと行くぞ」 本当に、師匠には敵わないな。 「しょうがねぇな。あんまんでもカスタードまんでもベルギーチョコまんでも、好きなのを奢ってやるよ」 僕は立ち上がり、涙を拭い、師匠と向かい合い、笑い合った。
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