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「そうか、死んだお兄さんにあげるはずの。そりゃあ怒るはずだ」
爽やかに笑いながら、師匠はコンビニのガラスの前でしゃがみ込み、両手で持ったあんまんにかぶりついた。
その仕草と幸せそうな表情は、どう見ても普通の女の子にしか見えない。
「あと、今月の食費もな。全部財布ん中突っ込んでた俺も悪いけどさ」
僕もビニール袋からチーズピザまんを取り出し、一口かじった。
「何を言ってるんだ。良太は悪くない」
当たり前のことをただ当たり前に口にして、師匠は一口一口、楽しそうにあんまんを食べ進めた。
「旨いか?あんまん」
立ったままピザまんを食べる僕は、師匠を見下ろして言った。
「ああ、美味い。良太と良太母に感謝だな」
師匠はしゃがんだまま、僕を見上げて言った。
「そりゃあ良かった」
「チーズピザまんは?美味いのか?」
「ああ。まぁまぁだな」
「そうか。それは良かった」
「ああ。良かった良かった」
夕陽が沈みかけ、ほのかに赤くなった曇り空。
その下でただコンビニあんまんを食べることの何がそんなに楽しいのか、嬉しそうに黙々と食べ続ける師匠と、それを見守る僕。
時間がゆっくりと過ぎているように、僕には感じた。
「もう、七月になるか。時間が過ぎるのは早いな」
「え、そうか?早いか?」
意外な意見の食い違いに僕が戸惑っていると、師匠は手にしていたあんまんを食べ終え、立ち上がった。
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