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「良太。今度はもっとちゃんと、遊びに行こう。こんな寄り道だけじゃなくて、休日にちゃんとだ。もっと、色んなことをしよう」
「なーに焦ってんだよ。夏休みだってあるんだ。たくさん遊ぶんなら、それからでもいいだろ」
「夏休み……か」
「どうしたんだ師匠?」
「ああ、いや、そうだな。夏休みでも、いいな」
師匠は何かを考えるように顎に手を当て、しばらくしてから、僕の持っているピザまんに目を止めた。
「スキあり!」
「あ、こら!」
残ったピザまんの具を全て丸かじりして、師匠は満足そうに笑顔を浮かべた。
「それまでに、成すべきことを成さないとな。時間はもう、あまりない」
「ああ、まぁ、テスト期間入ったら夏休みなんてすぐだもんな。てか、成すべきことって何だよ?」
僕が質問すると、師匠は身を翻し、流し目でこちらに微笑んでから、無言で僕の持つビニール袋を引ったくり、ゴミ箱に捨てに行った。
師匠が僕の手からゴミを取る瞬間、師匠の右拳の皮が捲れ、血が滲んでいるのが目についた。
人を殴るということは、自分を傷つけるということ。
暴力は、弱さの象徴だと僕は思う。
それを持ってしても尚、師匠は間違い無く、文句無しに、強い人だった。
「早くあんたに追いつきてぇよ、師匠」
誰にも聴こえない独り言を呟いてから、僕は残ったチーズピザまんの生地を口に捻じり込んだ。
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