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「は、聞いたかよ?話し合いだっ──てぼぇ!?」
椅子を持ったままの暴行担当が横を向いた瞬間。その一瞬の隙に間合いを詰め、彼女は微笑みながら鋭い右フックを顔面に叩き込んだ。
その笑顔は、僕が今まで見たことがないくらい邪悪で、見たことがないくらい活き活きとしていた。
「な、何しやがんだてめぇ!」
「だから、話し合おうって言ってるんだ。ほら、早く話し合おうゼ?」
笑いながら、彼女は両腕を少しだけ前に広げた。
その姿勢はとても気高くて、凛としていて、自信に満ち溢れていて、格好良かった。
「舐めんなぁ!」
「くそ、もう容赦しねぇ!ブッ殺すぞ!」
三人はやる気満々で、女子生徒へと迫った。
だが、言うまでもなく彼女の笑みは曇らない。
「おいおい、私は話し合いをしようって言ってやっているのに。しょうがない奴らだ」
それからの立ち回りも、実に鮮やかだった。
三対一という不利な状況でも、彼女は逃げもせず、避けもせず、騙しもせず、欺きもせず、隙を突くまでもなく、いとも簡単に三人の鼻っ柱を文字通りへし折り、一分もしない内に教室は僕と彼女の二人きりになっていた。
「よう、怪我はないか少年?」
彼女は僕の方に向き直り、手を差し伸べた。
「マジで言ってんだとしたら是非眼科へ行ってくれ」
僕はその手を掴むことなく、頭を押さえながらよろよろと立ち上がった。
「ちっ、何で助けやがった」
スルーされた右手を何故か嬉しそうな表情で引っ込めると、彼女は半分だけ綺麗になっている黒板を見つめた。
「礼ならいらないぞ?これは私が好きでやっている奉仕活動だからな」
「奉仕活動?」
その響きに、何故か僕は惹かれるものを感じた。
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