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「そう、奉仕活動。善いことをするのが私の趣味なんだ。不良に絡まれていた少年を助ける。ああ、なんて気持ちが良いんだ」
「あんたさ、女に助けられる男の気持ちって考えたことあるか?」
僕にはプライドというものが欠如しているから何とも思わないが、普通の男ならこの状況は相当ショックなはず。
僕が問いかけたのは、一般論の話だ。
「はん、知ったこっちゃない。私は私のやりたいことをやった。それだけだ」
右手を腰に当て、彼女は豊満な胸を張って堂々と答えた。
明朗快活。彼女を表現するにはそんな言葉がぴったりだと思った。
「善意なんかじゃない。ただ、自分の気分が良くなることをしたいという身勝手で自己満足で一方的な行為。世間一般でいわれているものと少し違うかもしれないが、これが私の奉仕活動だ」
信じられない、と思った。
決して他人のためじゃない。
自分の欲求を満たすためだけに、 善いことをする。
助けなんていらないと言われても、自分が助けたいから無理矢理助ける。
この人のやっている『奉仕活動』は、正しく僕の信念と同じだった。
僕が漠然と思い描いていた、僕自身のあるべき形。
僕が求めていたものを、この人は知っているんだ。
「私は三年のシノノメカンナ。東の雲に神が流れると書いて東雲神流だ。君の名前は?」
人に名前を聞くならまずは自分から。
そんな真っ直ぐな思考を包み隠すことなく、彼女は正面から僕を見つめた。
「ウラキリョウタ。裏の木が良く太いと書いて裏木良太。二年生」
この先輩の瞳には不思議な力がある。
初対面であるのにもかかわらず、僕が睨むことなく純粋に人の目を見て話すことができたのだから。
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