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そう笑いながら話す横顔には、母親の愛情で溢れ返っていた。
この人に大切に育てられた紗智なら、きっと素敵な母親になるだろうなと思いながら。
「これからのこと、心配は沢山あるんですけれど……不安や迷いは全くないんです。」
「え?」
俺の言葉を、彼女は目を大きく見開いて訊き返す。
「だって俺は、紗智のこと……」
そう言いかけたとき、閉ざされた扉がゆっくりと開き始めた。
中からは元気な赤ちゃんの産声が聞こえて、この静まり返った廊下に響き渡る。
「あら……無事に生まれたみたいね。」
「……。」
その瞬間に、すぐに紗智の傍に駆け寄りたかったけれど、ガクガクと足が震えて立てない。
極度の緊張から解き放たれたことと、ずっと思い描いていた感動が目の前に現れたことで、胸の中に熱いものが込み上げてくる。
「ほら、行ってあげて。」
「……はい。」
優しく背中を押されて、震える足をゆっくりと動かした。
まるで手術中の医者のような格好にさせられて、横たわる彼女の傍に歩み寄る。
俺の顔を確認すると、疲れきっていた彼女の表情に笑顔が咲いた。
「……ずっと、待っていてくれたの?」
「うん……。傍にいてやれなくて、ごめんな。」
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