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大樹の日々刻々
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「ひゃあ!!」
俺の朝は大抵、キッチンから聞こえる紗智の叫び声から始まる。
ちなみに昨日は、その叫び声と共に鍋をひっくり返していた。
どうすれば、そういう状況になるのか理解し難いような光景。
「おはよう。どうしたの?」
肩を落とす華奢な背中に向かって問いかけると、眉を顰めた紗智が俺を見た。
「大樹ぅ……玉子焼きが、焼死体みたいになっちゃった。」
その言葉に、彼女の手元にあるフライパンを覗き込む。
その中では、黄色いはずの玉子焼きが元の色を完全に失っていて、何だかよく判らない焦げた塊になっていた。
「ちゃんと火力の調節した?」
「したけど、油引くのを忘れた。」
「……。」
それ、3日前も言っていたよね?
もし他の誰かが同じような失敗をしたら、間違いなく俺は、溜息を吐いていただろう。
けれども悲しそうにフライパンを見つめる紗智は、言うまでもなく可愛すぎて、今すぐにソファーに押し倒してしまいたくなる。
って……起きたばかりで、何を考えているんだろう。
「玉子焼きはいいから、はちみつ梅くれる?」
「うん!! あと豆腐のお味噌汁も入れるね。」
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