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可愛い……。
こいつ俺の気持ちを弄んでいるのだろうか、と疑いたくなる。
そしてテーブルの上に用意されていた料理。
どれも美味しそうに仕上がっているけれど、料理の得意でない紗智は、いつも心配そうに俺の反応を見てくる。
「美味しい?」とは、自分からは絶対に訊いてこない。
だから俺は必ず言う。
今日も美味しいよと、嘘も偽りもない本当の感想を。
それから食後にコーヒーを淹れるのは、俺の役目。
「熱いから、気をつけろよ?」
「うん。ありがとう。」
いつものようにソファーに座って、肩を寄せ合ってコーヒーを飲む。
俺はこの瞬間が実はいちばん好きだ。
紗智がこの家に通い始めた頃から、毎日のように続くこの時間。
当時のことを思い出し、そして今の幸せを噛みしめ、とても暖かい気持ちにさせられる。
「今日、どうして芋だらけだったの?」
「えっと……安かったから、ケース買いしちゃったの。ちょっとやり過ぎだった?」
「ううん。本当に美味しかったから、全然構わない。」
俺の言葉に、紗智は口元を上げて嬉しそうに微笑む。
その瞬間、俺は自分の持っていたマグカップをテーブルの上へ置いた。
そして……
「待って、零れちゃう……。」
そう言いながら同じようにマグの置き場に困っている紗智に、さっきからの我慢の糸がプツリと切れてしまう。
少し乱暴にマグを奪い取って、それを近くの床の上に置く。
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