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一章 出逢い
我ながら無為な日々を過ごしていると思う。
でもまあそれも仕方がない。
そうしなければ生きていけないのだから。
毎日有りもしない仮想敵を想定し、繰り返される最新「人型」の起動実験。
それが俺の日常だった。
実際に戦争が起こるわけないと皆が思っているのだから、誰しもがまともに働いていない。
唯一主任だけが仮想の敵に脅威を抱き、機体性能の向上に人生をかけている。
「おい!そこなに気ぃ抜いてる!」
主任の声が作業場内に響く。
しかし耳を傾けるものはいない。
むしろ、あいつは頭がいかれてるから、という声が聞こえるほどである。
呆れたものだ。
「主任。これさっきの機動実験のデータ」
「おお、そうか」
主任に先程のデータをまとめて渡す。
とりあえずこのアイゼン・インダストリーでの俺の立場はテストパイロットとなる。
とはいっても実際戦闘に出ろと言われたら無理な話だが。
単純に大学で機動実践を行ったことがあるのと、若いからという理由だけで選ばれているのだ。
実戦は連合軍に任せる。
まあ機会があればの話だが……
「お前だけだな、ハルト。俺にまともについてくるのは……」
突然主任がそんなことを言う。
「最近の奴らは危機感が足りんよ。外部から脅威が迫ればすぐに崩れる」
確かにそうかもしれない。
でも俺だってテストパイロットでなければ、彼らのようにもっと適当に仕事をこなしていたことだろう。
人のことをとやかく言える立場にはいないのである。
「そんな大したもんじゃないよ」
「ま、そうゆうことにしとくか」
そんなふうに言われても困るが、適当に頷いて機体の整備に戻る。
そうして今日も一日を終えようとしていた。
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