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きっと今自分の顔を鏡で見たらたいそう間抜けな顔をしていることだろう。
今の状況になんともそぐわない唐突な彼女の挨拶に、呆気にとられていた。
「おはよう、ございます」
何を言ったらいいかもわからずそのまま挨拶を返してしまう。
「あれ?でも今は夜ですから、こんばんは、ですか?では、改めまして……」
「いや、改めなくても」
「そうですか?」
このまま彼女のペースに巻き込まれても困る。
ずっと間抜けな会話を続けてしまいそうだ。
「あー、俺の名前はハルト・クライフ。アイゼン・インダストリーでテストパイロットをしている。
君の名前は?」
「私の、名前?」
彼女はしばらく悩むそぶりを見せ、言った。
「忘れました」
非常にあっけらかんとしている。
自分が名前を覚えてないことなど、極めてどうでもいいことのようだ。
「それって、記憶喪失か?」
「きおく、そうしつ?」
不思議そうに小首を傾げる。
「えーと、この機体は何?俺の知っているものとは違うんだが」
「わかりません」
「じゃあどこから来たんだ?目的は?」
「わかりません」
思わず頭を抱える。
何一つ覚えていないようだ。
「なんとか名前くらい思い出せないか?このままだと、不便だ」
せめて名前さえわかれば、そこから何か判明するかもしれないと尋ねる。
「名前、ですか……」
しばらくの間考え込むと、彼女はこう言った。
「では、あなたがつけてください」
「俺が?」
「はい、そうです」
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